医疗の未来を纺ぐ100年のカイコ研究
医疗の未来を纺ぐ100年のカイコ研究
2022/06/03
动画作成者
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日下部宜宏
教授
农学研究院资源生物科学部门农业生物资源学
専门分野
応用昆虫学、昆虫科学、蚕糸?昆虫利用学
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植物の栽培や动物を家畜にすることは、人间の大きな特徴の一つであり、それが现代文明への第一歩となったことは间违いないでしょう。家畜として思い浮かぶのは犬や马が多いですが、それら脊椎动物にもまして人间の歴史に大きな変化をもたらしたのが蚕です。
蚕(Bombyx mori)の饲育の歴史は、约6000年前の中国までさかのぼり、日本では少なくとも2000年前に养蚕が始まりました。蚕が生み出す贵重な绢は、アジア全域において活発な交易を促し、日本や中国では一时货币の代わりとしても使われました。
今なお高级品である绢ですが、九州大学では蚕を使って、グラム単位でより価値の高い素材であるタンパク质を生产しています。
「私たちが生产しているのは単なるタンパク质ではなく、医疗用のタンパク质です。効率性の高いバイオリアクターとして蚕を利用し、大量のタンパク质を生产しています」と、「カイコ博士」の爱称で知られるの日下部宜宏教授は话します。
「九州大学では100年もの间、研究のための养蚕が続いてきました。私たちはその蚕と共に、バイオリソース(生物遗伝资源)科学分野の最先端の研究を行っています」。
九州大学にとって蚕の研究はアイデンティティそのものです。1910年に田中义麿教授が蚕の遗伝学的记録を开始し、遗伝形质や形态などの目録を作成したことに端を発し、1922年には农学部と养蚕学讲座が设立されました。田中教授の功绩は引き継がれ、等しく教授も学生もそれら昆虫の遗伝子パターンを丁寧に记録してきました。
「学部时代、私もそうした学生の一人でした。研究者として九州大学に戻ってきた时は、顿狈础の损伤と修復が研究テーマであり、その时に九州大学の100年に及ぶ蚕の研究を応用できないかと探り始めました。およそ12年前に、九州大学の蚕リソースをより効率的なタンパク质のバイオリアクターとして応用することを思いつきました」。
例えばインスリンといったタンパク质を大量に作るには、その遗伝子をバクテリアや酵母、植物などのゲノムに挿入して、その生物に作らせるのが最も一般的な方法です。しかし、构造が复雑なタンパク质や生物体内の条件が揃わない场合は、生产効率が极めて低くなります。
「例えば、ワクチンとして利用できるものの一つにノロウイルスのウイルス様粒子がありますが、生物体内での培养には不向きなのです。ところが蚕では、培养が可能であるだけでなく、非常に効率よくできることを、私たちは発见しました。最适な条件下で大量のタンパク质を生产できる蚕の系统を探すのに7年近くかかりました」と、日下部教授は振り返ります。「たった1匹の蚕が1000人分のワクチン接种に相当する5尘驳のノロウイルスのタンパク质を作り出す、これは非常に効率的です」。
2018年には、それまでの研究で得られた知识を社会へ还元することを目的に、日下部教授と九州大学大学院工学研究院の神谷典穂氏、そして现代表取缔役の大和建太氏が大学発ベンチャーを设立しました。これまでにも製薬会社と提携し、や研究用试薬、さらには家畜用ワクチンなどの製品开発を进めています。
とはいえ、1世纪にわたり続いた蚕の生态研究には终わりはありません。成果を积み重ねてきた蚕の基础研究を、日下部教授はこれからも続けていきます。
「今后は昆虫をより効率の良いバイオリアクターとして応用するため、その成り立ちを调べ、代谢の仕组みを解き明かしていきます。昆虫の构造を彻底的に解き明かすことは、人类にとってはかり知れない恩恵をもたらすでしょう。この研究が可能なのは蚕研究の长い歴史を持つ九州大学をおいて他にありません。これからも、この唯一无二のバイオリソースを追求していきます」。