伊人直播app

ゲーム理论で新たな総合知の创出を

ゲーム理论で新たな総合知の创出を

ゲーム理论は、复数のプレイヤーの选択がお互いの利害に影响を与えあう状况で、戦略的行动を数学的に分析する理论です。その応用范囲は幅広く、今なお発展を続けています。

The original English version of the interview can be found here.

阿部贵晃先生は、数多くの受赏歴があるゲーム理论家であり、政党の连立からゴミ処理のトラブルまで社会问题の背后にある戦略を数学的に分析しています。研究の背景や、今后の展开について伺いました。

専门は何でしょうか?

ゲーム理论を研究しています。

なぜこの分野を専门にしようと思ったのですか?

私は高校生の顷、初めてゲーム理论について知りました。日本の学校では、小学校、中学校から高校まで、学生が昼食后や放课后に共用エリアを扫除することがしばしばあります。私が高校生のときは、扫除を监督する委员会に所属しており、教室の扫除や廊下の扫除を监督していました。しかし、よくあることですが、学生の中には扫除をサボる生徒もいました。当时の私は、扫除をサボるのはその人自身の性格や、个人のモチベーションの欠如によるところが大きいと思っていましたが、当时の私なりに、彼らにきちんと扫除をしてもらうためには何が効果的だろうかと考えていました。

そのような中で、ある日の放课后、家の近くの本屋さんに立ち寄ったときに「ゲーム理论」という本が目に留まって手に取りました。もちろん、何かを学ぼうと思ったわけではなく、ポケモンのようなゲームについての本と思ってのことです。しかし読み进めてみると、その本には、ゲーム理论の観点からすると扫除をサボるのは合理的である(!)と书かれていました。

これにはとても惊きました。简単に言うと、たとえばクラスに30人いると、1人がサボっても他の29人が扫除をすれば部屋はきれいになります。そうすれば、その1人がわざわざ扫いたり拭いたりしなくても、部屋はきれいになり、その人はきれいになった部屋を享受できるということです。つまり、その人はコストを支払うことなく、きれいな部屋という恩恵にあずかれるわけです。

その意味では、たしかに掃除をしないのは合理的です。初めて読んだときは、「そんな馬鹿な!」と思いました。それまで私は、掃除をしないのはその人の個人的な態度の問題だと思っていたからです。 しかし、ゲーム理論の観点からは、掃除をしないこともある意味では合理的な選択肢であるといえるわけです。これは、あるプレイヤーの非協力的な振る舞いによる利益が、協力的な振る舞いによる利益を超える場合に起こる現象で、社会的ジレンマと呼ばれます。

扫除をしないことが合理的な选択肢だという考え方があることも知って、「なるほど、そういう见方もあるな」と思うようになりました。このような経纬で、近所の本屋さんでゲーム理论の本を见つけたのがきっかけでゲーム理论に兴味を持ち、大学に入ったらゲーム理论を専攻しようと考えはじめました。

ゲーム理论とはどのようなものでしょう?

ゲーム理论とは、自分の选択が相手の利害に影响し、相手の选択も自分の利害に影响する状况を数学的にモデル化して分析する理论です。身近な例ではじゃんけんが挙げられます。例えば、相手がグーのときに、自分がチョキを出すと负けです。相手がグーのときに、自分がパーを出すと胜ちです。このように、両方のプレイヤーがいくつかの选択肢を持っていて、结果がお互いの选択によって决まるような状况をゲーム的状况と呼びます。じゃんけんは一例ですが、お互いの选択がお互いの利益に影响を与える状况は、社会のいたるところにあるため、ゲーム理论はさまざまな场面に応用され、幅広い分野で活用されています。

ゲーム理论はどの様な场で応用されますか?

もともとゲーム理论は数学者のジョン?フォン?ノイマンにはじまり、その后フォン?ノイマンと経済学者のオスカー?モルゲンシュテルンによって草分け的な书籍が出版されました。それ以来、政治学、生物学、情报工学、心理学、経営学など幅広い分野に応用されてきました。

ゲーム理论が応用される社会的な好例は、オークションです。人々が絵画や壶に入札するレベルのオークションもあれば、国家レベルのオークションもあります。例えば、政府が携帯电话や放送用の周波数を贩売するためのオークションなどもあり、実に幅広いです。个人レベルから国家レベルまで、様々なオークションがゲーム理论を使うことでよりよく理解できます。ゲーム理论を用いて市场を设计することは、欲しい商品が欲しい人の手に渡るようにシステムを作ることにつながります。また、ゲーム理论の他の応用例として、保険会社による自动车保険や火灾保険の保険料の设定や、交通渋滞の缓和、株式市场でのトレーダーの振る舞いの分析などもあります。

経済学研究院にご所属されていますが、先生のゲーム理论は経済学に特化しているのでしょうか。

私の研究は主に経済学に関係します。しかし、一概に分类するのは困难です。ゲーム理论の研究者は、さまざまな学部に所属しています。例えば、工学、法律、政治、心理学などの分野にもゲーム理论家がいます。私も今は経済学研究院に所属していますが、以前は工学研究院に所属していました。ゲーム理论は幅広い分野にまたがっています。

先生の论文、 は何を解明しましたか?

この论文では、なぜ特定の国や地域にゴミ処理が集まるのかを分析しました。例えば、喉がかわいてコンビニでお茶を买ったとき、饮んだ后に空になったペットボトルの処分を他人に押し付けたりはしませんよね。しかし国家レベルでは、意外とこのようなことが起きています。例えば、2017年には世界中のプラスチック廃弃物の60%が中国に送られて処理されていました。他にも、2010年代には、廃弃物がカナダからフィリピンに一方的に送られていた时がありました。これを知ったドゥテルテ大统领がカナダ政府に抗议して、大きなトラブルとなりました。

The green grass of Odense, Denmark (Conference at University of Southern Denmark)
南デンマーク大学の学会にて

似たような事例が、日本でも1960年代から1970年代にかけて起きています。当时の东京都23区で発生したゴミは、ほぼすべてが江东区に送られていました。江东区长は中止を求めて抗议し、「东京ゴミ戦争」と呼ばれるトラブルに発展しました。このような、ゴミを他人に押し付ける行為は国や地域のレベルでは珍しくありませんし、同种の问题が地域や时代を超えて発生していることがわかります。そこで、これらの个别の事例の背景には、一般的な问题の构造があるのではないかと考え、それを明らかにするために、ゲーム理论の数学的モデル化を活用しました。ゲーム理论では意思决定を行う人をプレイヤーと呼びますので、プレイヤーが自分のゴミを他のプレイヤーに押し付ける状况をモデル化して分析しました。ゲーム理论の観点から见ると、自分のゴミを他人に押し付けるという行动が、ある种の均衡状态になってしまうことが分かりました。

モデルを作成するときは、誰がプレイヤーなのか、彼らがどのような戦略を持っているのか、どのような選択をするのかを特定する必要があります。各プレイヤーは、いくつかの戦略を持っていてその中から選択します。A はこの戦略、B はこの戦略、C はこの戦略、という具合です。そして、全員の戦略が決まると、それが均衡状態なのかを分析します。均衡へ至るまでの経緯は動的で、その動きを捉えて明確に表現することも狙いの一つです。ゲーム理論における均衡は、一種の理論予測とみなすこともできます。

ゴミが一箇所に集まることが常に悪いわけではありません。もし、础はゴミ処理が苦手なプレイヤーで、叠は高度なゴミ処理技术を持っていてゴミを安く処理できるプレイヤーなのであれば、処理を叠にまとめた方が、効率が良い可能性があります。

という论文では何を解明されましたか。

ゲーム理论を使って、政党がなぜ合併したり分裂したりするのかを分析しました。一例として、过去30年ほどの日本を见ると、政党の合併と分裂が频繁に行われてきました。最近でも民主党が分裂したりくっついたりしていた时期がありました。

The Museum Louvre in Paris, France (Conference at Université Paris-Dauphine)
パリ?ドフィーヌ大学の学会の合间、ルーブル美术馆にて

なぜ政党が合併したり分裂したりを繰り返すのか分析するために、ゲーム理论を使ってモデル化できないかと考えました。ゲーム理论には多くのツールがあり、その中に、投票力指数と呼ばれるものがあります。投票力指数は、ある投票环境において各投票者が彼らの最终决定に対してどれだけの影响力を持っているかを测る指数です。例えば、政党の构成员が自分たちの影响力を大きくしようと行动するときに、政党は频繁に合併するのかもしれません。このように、ゲーム理论を応用して、政党の连立构造の特徴を见ていきます。二大政党制や一党独裁といった构造も分析しています。

このような研究によって、これまで解明されていなかったことを理解するのに加え、社会で起きている问题や、曖昧な疑问を、明确化して説明したいと考えています。现象の中で、何と何が関係しているのかを明确にできれば、习惯や文化といった捉えにくいものでもゲーム理论的な视点から理解が深まるかもしれません。このように、何が何に関係し、何が関係していないのかを明らかにできることもゲーム理论の力の一つです。

人と人の间の力関係がどう数式で分析できるのか、もうすこし教えてください。

意外とシンプルです。例えば、高校の先辈2人と后辈1人の3人グループがあるとします。础、叠、颁として、彼らがカラオケに行きたいとします。础と叠は先辈なので、それぞれ3票を持つとしましょう。颁は后辈なので1票を持つとしましょう。そして、カラオケに行くには、计4票の賛成票が必要だとしましょう。础と叠はそれぞれ3票持っているので、力関係の意味で强そうですよね。しかし、先ほども言ったように、カラオケに行くためには4票で十分なので、実际には、础と叠が賛成の场合、叠と颁が賛成の场合、础と颁が賛成の场合でどれでもカラオケに行けて结果は同じです。つまり、颁は础や叠よりも一见弱そうに见えますが、力関係としては同等です。これらを计算するツールが投票力指数です。私たちが直感的に考えることと数学的に定式化された结果の间には时折ギャップがあります。ゲーム理论は、このような直感と现実の间のギャップを明らかにしてくれます。

ゲーム理论は新しい学问ですか。

1920年代から1940年代に始まったという意见がありますので、古くから存在している物理学や数学よりは新しいと言えると思います。経済学の文脉で见れば、确かに新しいかもしれません。まだ100年、あるいは70~80年程の歴史ということです。しかしその间にも、私たちを取り巻く环境は随分変化しています。ゲーム理论自体も进化していて、ゲーム理论でできることは、70年前よりも広がりました。私たちの社会システムも変化していますので、ゲーム理论の関心対象もまた増えています。分析手法と分析対象がお互いに进化しているという状况です。

研究はどの様に行いますか。

私の研究は、基本的に理论研究です。考えていることは纸に书きますので、メモは式でいっぱいになります。例えばこのメモは、特许プールに関するものです。现在、様々な公司が特许を保有していますが、特许が分散しているとライセンス取得に不便な场合があります。特许プールとは、すべての特许を一か所に集めてまとめて取得できるようにするワンストップのシステムです。特许プールの运営者がライセンスで得た利益を、特许保有者たちにどう配分する仕组みにすれば不満が生じにくいのかを模索しています。実际の特许プールの事例やデータを参照しながらの作业ですが、理论的な焦点はそれらの事例に通底する一般的な构造です。

実験経済学にも取り组んでいます。ゲーム理论の良いところは、アイデアを现実に试せるところです。ゲーム理论はラボで実験することができます。ゲーム理论で设计した(たとえばオークションのような)経済的なシステムが、ラボで実际に机能するかデータを収集して、データが理论予测と一致するかを検証します。

実験研究では、理论的に分析されたシステムを、それが本当に机能するかどうか确认し、うまくいかない场合は理论を修正したり、新たに実験を行ったりします。システムをいきなり実际の国や社会で试すのは难しいので、代わりに、大学で学生の皆さんの助けを借りて実験を行います。実験でうまく机能すれば、それを现実に応用できるかもしれません。

今后取り组みたい课题はありますか。

ゲーム理论をさらに発展させて、より多様な状况を分析できるようにしたいと考えています。细かい分类はたくさんありますが、大まかに言うと、ゲーム理论には二つの伝统的な分类があります。一つは非协力ゲームで、もう一つは协力ゲームです。非协力ゲーム理论は主に、各プレイヤーがどのような戦略を选択するのかを分析するために用いられます。戦略的行动が焦点です。

协力ゲームでは、复数のプレイヤーが协力したときに生み出す、コストや利益に注目します。メンバー间でコストや利益をどのように分担するか、どのような协力グループが形成できるのかを分析します。しかし、现実に周りを见渡してみると、100%非协力ゲーム的なケースや、100%协力ゲーム的なケースばかりではなく、これらの状况が混在していることがよくあります。例えば、戦略的にふるまう人々の中に协力的なグループが存在する场合や、协力的なグループの中に戦略的なやりとりがある场合もあります。私たちの周りには、このように复雑で豊かな侧面がたくさんあります。

このような侧面も无理なく含められるようにゲーム理论を拡张することができれば、ゲーム理论による分析の幅が広がると考えています。人々の行动が周囲の人たちの利害に相互に影响する状况で、ゲーム理论がさらに広范に活用できるようになります。

九州大学は、大学の目指す姿である「総合知で社会変革を牽引する大学」の実現に向けたビジョン「Kyushu University VISION 2030」を策定しました。先生の研究はどのようにVISION 2030に貢献するとお考えですか?

VISION 2030で、九大が総合知によって社会変革を牽引する大学を目指すことが掲げられています。私はゲーム理論が専門ですが、この理論を用いることで社会的課題に必要な新たな総合知創出に貢献できるのではと考えています。ゲーム理論は、さまざまな分野の状況を数学的にモデル化するためのいわば共通言語です。ある分野Aで起こっていることと、ある分野Bで起こっていることが一見無関係に見えたとしても、ゲーム理論の観点から見ると実は似たような共通の構造を持っている可能性があります。そうなると、Aで提案された解決策が、ゲーム理論を通して、Bにも適用できるかもしれませんし、逆に、Bの解決策をAに適用できるかもしれません。この意味で、ゲーム理論はさまざまな分野を横断して、問題意識や解決策を共有するための架け橋になれると考えています。

近年、さまざまな分野で高度な専門化や細分化が進んでいますが、ゲーム理論は人文社会科学や自然科学の枠にとらわれず、バラバラになった分野を結びつけることができると思っています。それによって、VISION 2030が目指す総合知に欠かせない、分野間の結束に貢献できると考えています。

VISION 2030についてはこちら

阿部先生の研究の详细については、ご自身のサイトをご覧ください。 .


Buck-passing Dumping in a Garbage-dumping Game, Theory and Decision 93:509-533, 2022 []

Stable Coalition Structures and Power Indices for Majority Voting, Journal of Public Economic Theory 24:1413-1432, 2022 []