Research Results 研究成果
ポイント
概要
宮崎大学 農学工学総合研究科 資源環境科学専攻 博士課程の陳 富嘉と、九州大学 大学院農学研究院の片山 歩美助教らの研究チームは、宮崎県と熊本県にまたがる九州脊梁山地における土壌侵食が、森林内の土壌微生物相を変化させていることを明らかにしました。
九州脊梁山地では、シカ等によって森林下层の植物が食べられ、地表面の土壌が流れ出る土壌侵食が起きている箇所がよく见られています。土壌微生物相(土壌内における微生物の集合)は、土壌中の有机物分解や植物との栄养受け渡しなどを通じて、森林生态系の物质循环などに重要な役割を果たしていますが、これまで森林内での土壌侵食がもたらす土壌微生物相の変化や土壌生态系への影响については分かっていませんでした。
宫崎大学と九州大学の合同研究チームは、宫崎県と熊本県にまたがる九州脊梁山地における土壌侵食が、森林内の土壌微生物相を変化させていることを明らかにしました。九州脊梁山地ではシカ等による食害で、一部の森林における下层の植物や地上の落ち叶などが无くなってきています。下层の植物や落ち叶が无くなると、地表土壌が雨滴に晒されたり冻结融解が起きたりすることで、土壌が斜面を流れていく土壌侵食が起きています。この土壌侵食によって、土壌中の有机物量の低下や土壌密度の上昇が起きることが知られていますが、土壌微生物相がそのプロセスの中でどのように変化しているのかや、どのような役目を果たしているのかについては分かっていませんでした。
本研究チームが九州山地の3ヶ所で土壌微生物相の網羅的な解析を行ったところ、土壌侵食により3ヶ所の森林で同じ様に微生物相が変化していることが分かりました。その変化に関係性のある微生物の群集組成や環境中の機能性を解析したところ、真菌類では植物と共生関係を持つ外生菌根菌(※1)の相対存在量が低下し、代わりに植物病原性や腐生性の真菌類(※2)の相対存在量が増加する方向であったことを明らかにしました。また原核生物については、貧栄養な環境中でも生育できる分類群や深い土壌で優占する分類群の割合が増加していました。この結果は、土壌侵食が起きた场所では今後植物が定着しづらい微生物相になっていることを示しており、定着ができないことによってさらに土壌侵食が起きるような負のスパイラルになっている可能性を示唆するものでした。
これらの研究成果は、全国で増加しているシカ等による食害がもたらす森林环境の変化や、その后の土壌侵食や森林荒廃に関する土壌生态系のメカニズムの理解を促进させ、今后の森林管理や山地保全についての基础的な知见を提供しています。
本研究成果は、「Journal of Forest Research」誌に2023年10月10日に掲載されました。本研究チームは、今回得られた知見を基にして、森林土壌生態系の保全や山地保全について引き続き研究を進めています。
図1 調査を実施した3つのエリアの概況(上段)。 下段は土壌侵食によってひどく根っこが露出している箇所。 撮影者:片山歩美(上段左)、陳富嘉(上段中央)、徳本雄史(上段右、下段)
用语解説
※1 外生菌根菌:植物の根に感染し、植物が養分を受け取るのを手助けしている共生菌類の一種。菌類は植物が作る光合成産物を受け取ることで生きている。
※2 植物病原性や腐生性の真菌類:真菌類のうち、植物病原性の菌類は植物に病変などを発生させて栄養を得ており、腐生性の真菌類は栄養の摂取を枯死した植物などから得ている。
论文情报
掲載誌:Journal of Forest Research
タイトル:
著者: Fu-Chia Chen1, Ayumi Katayama2, Mimori Oyamada3, Taku Tsuyama4, Yoshio Kijidani4, Yuji Tokumoto5,*
所属:1: 宮崎大学 農学工学総合研究科, 2: 九州大学 大学院農学研究院 宮崎演習林, 3: 九州大学 大学院農学研究院, 4: 宮崎大学 農学部森林緑地環境科学科, 5: 宮崎大学 研究?産学地域連携推進機構
*: 連絡責任者
DOI: 10.1080/13416979.2023.2265006
オンライン出版日: 2023年10月10日
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