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Research Results 研究成果

キネシン生体分子モーターの无细胞合成に成功

~细胞やバクテリアを使わずに手軽に生体分子モーターを合成することが可能に~ 2023.06.19
研究成果Life & HealthPhysics & ChemistryMaterialsTechnologyEnvironment & Sustainability

ポイント

  • 生体由来の微小なモーターであるキネシンを谁でも简単に合成可能に
  • 合成キネシンの方が、従来の遗伝子组み换え大肠菌由来のものより高性能であることを発见
  • キネシンの构造?机能も容易に改変可能

概要

 九州大学大学院芸术工学研究院の井上大介助教と北海道大学大学院国际食资源学院博士后期课程2年(当时)の大桥慧介氏、同大学大学院农学研究院の高须贺太一准教授、京都大学大学院理学研究科の角五彰教授らの研究グループは、生体由来の微小なモーターであるキネシンを试験管内で合成することに成功しました。
 キネシン生体分子モーター(※1)は、アデノシン叁リン酸(础罢笔)の化学エネルギーを高効率に运动に変えることができ、数十ナノメートル(髪の毛の3000分の1くらい)という小さなサイズにも関わらず、高い出力(一般的な电磁モーターの20倍程度)を発挥する优れたタンパク质です。キネシンは细胞内に张り巡らされた繊维である微小管细胞骨格(※2)に沿って移动しながら、様々な物质を输送します。キネシンは细胞内の物流を担うタンパク质であるため、细胞が机能する仕组みを理解する上で重要です。また、ナノテクノロジーの分野でもナノメートルサイズの微小な动力パーツとして古くから注目されています。
 これまで、キネシンは遗伝子组み换え大肠菌を用いて作る方法が主流でしたが、バイオセーフティの认証や専用设备?装置、熟练されたタンパク质精製スキルが必要であり、同じ品质?量で安定して得ることが困难でした。そのため、生物学専门の研究机関以外で、キネシンを获得することが难しく、キネシンを幅広い研究分野で利用することに制限がありました。
 今回、我々はコムギの胚芽抽出液を用いた无细胞タンパク质発现系(※3)により、大肠菌のような遗伝子组み换え生物を用いずに、キネシンを试験管内で合成することに成功しました。合成したキネシンが駆动することも确认できただけでなく、従来の遗伝子组み换え大肠菌を用いて作ったものよりも高性能であることを明らかにしました。また我々は、キネシンの遗伝子テンプレートをPCR(※4)により编集し、合成キネシンの构造と机能を简単に改変することにも成功しました。
 キネシンの合成は、必要最低限の机器を用いるだけで谁でも行うことが可能であり、九州大学芸术工学部の授业では、マイクロピペットを握ったことがない学部3年生でも、动くキネシンの合成に成功しています。このことは顿滨驰バイオ(※5)の観点からも重要です。本研究により、キネシン生体分子モーターをより幅広い分野の研究者が利用することが可能になり、今后応用のチャンスが増えると期待されます。
 本研究成果は、2023年6月16日(現地時間)にアメリカ化学会発行 ACS Synthetic Biology誌 に掲載されました。

キネシンの试験管内合成の模式図

用语解説

※1 生体分子モーター: 数十ナノメートル程度のタンパク質で、2つの微小管結合部位を有する。生体のエネルギー通貨であるアデノシン三リン酸(ATP)を消費して、2つの微小管結合部位を交互に繰り出すことで、微小管上を2足歩行する。微小管結合部位と反対側の部位に、輸送物質を結合させ、微小管を道路として細胞内輸送を担う。
※2 微小管: 微小管は構成材料であるチューブリンというタンパク質が連なってできる直径 25 ナノメートル、長さ約数十マイクロメートルの中空上の生体繊維(ナノは 10 億分の 1 メートル、マイクロは 100 万分の 1 メートル。髪の毛 が 60~100 マイクロメートル、微小管は髪の毛の 3000 分の 1 程度の太さ)。微小管は細胞内の物質輸送のレールとしてだけでなく、細胞の形態維持や染色体分離、繊毛運動など、細胞内で様々な役割を果たしている。
※3 無細胞タンパク質発現系: タンパク質は、大元となるDNAの遺伝情報がmRNAに転写され、mRNAの情報を基にタンパク質が作られる。この流れをセントラルドグマといい、セントラルドグマを試験管内で行うことができるのが無細胞タンパク質発現系である。本研究では、セルフリーサイエンス社のコムギ胚芽抽出液を用いたタンパク質合成キットを使用。試験管内にタンパク質の設計図となるDNAとともに、RNAやタンパク質合成に関わる必要な酵素群を入れ、最適な温度に置くことで、タンパク質の合成が可能である。
※4 PCR: 新型コロナウイルス流行後、頻繁に聞くようになったワードだが、DNAを増幅する方法である。二種類の短いDNA断片(プライマー)で挟み撃ちした領域のDNA配列を増幅できる。このプライマーの中に追加の遺伝子情報を導入することで、キネシンの構造に新たな構造を追加できる。
※5 DIYバイオ: DIYバイオ(Do-It-Yourself Biology)は、「自分で行うバイオテクノロジー」という意味であり、一般の人々が自宅やコミュニティの中でバイオテクノロジーの実験や研究を行うことを指すバイオテクノロジーの民主化を目指す試みである。

论文情报

掲載誌:ACS Synthetic Biology
タイトル:
著者名:Daisuke Inoue, Keisuke Ohashi, Taichi E. Takasuka, and Akira Kakugo
DOI: 10.1021/acssynbio.3c00235

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