Research Results 研究成果
概要
九州工业大学大学院情报工学研究院の植松祐辉准教授、九州大学大学院理学研究院木村康之教授らの共同研究グループは、数十マイクロメートルの気泡が多く分散した水において个々のバブルが従うサイズの时间変化の法则を解明しました。今回の発见は、产业利用されているマイクロバブル*1 水の気泡サイズ制御法の改善、基础科学の未解决问题とされているナノバブル*2 の安定性解明の端绪となります。将来的には、例えば、洗剤を使わなくとも汚れを落とすことができる洗浄用水の开発や、野菜の収量や鱼介类の养殖生存率を増加させるための农渔业用水の开発など多方面の产业の発展に寄与するものと考えています。
ポイント
図1. (左)顕微鏡観察したマイクロバブルが多数分散した水 (右)バブルの半径速度の半径依存性を示した模式図。実線は拡散律速型オストワルト熟成の理論式を示している
近年、技术の进歩により、小さな気泡を多数、水中に分散させることができるようになりました。これらは、マイクロバブル水と呼ばれ、様々な产业の现场で利用されています。例えば、鱼介类の养殖や半导体机器の洗浄用水として利用されています。我々の身の回りでも、炭酸水やお风吕のジャクジーなどで、気泡が水中に多く分散した状态というものは身近な现象です。水中の気泡は密度が小さいので、上昇していき水面で消灭することが殆どですが、ガラス表面などで长时间留まることもあります。小さい気泡は非常にゆっくりと上昇し、気泡の半径も収缩したり膨张したりします。
水中の気泡のサイエンスにおける大きな谜として、マイクロバブルよりもさらに小さなナノバブルがなぜ长时间安定に存在するのかという问题があります。普通、小さいバブルは直ぐに収缩してしまうため、このナノバブルは、当初、存在しないと考えられていました。しかし、近年、ナノスケールの微粒子検出技术が発达し、どうやらナノバブルを生成して数週间から数ヶ月程度、水中に安定に存在していることが実験的に确かになってきています。しかし、今の所、このナノバブルの存在を説明する理论はありません。
そこで本研究は、ナノバブルよりも大きく顕微鏡で観察可能なマイクロバブルを対象として、マイクロバブルの半径がどのように時間変化しているかを実験的に解明することを目的にしました。マイクロバブルが多数分散したマイクロバブル水を顕微鏡で観察して、1000 個ほどのマイクロバブルを1 分ごとに画像撮影をします。その画像を計算機で解析することにより、それぞれの気泡の半径の時間変化を90分にわたり取得しました。
解析の结果、ある时刻での気泡の半径には膨张と収缩の両方の変化があり、その境界は、およそ全体の平均半径で决まり、平均半径よりも大きな気泡は膨张を、平均半径よりも小さな気泡は収缩していくことが分かりました。これは、饱和结晶溶液で大小の结晶粒子が多数ある场合に起きるオストワルト熟成と同様の现象です。さらに、より详细にある半径の気泡がどのような半径速度*4 を持つか调べたところ、水中のマイクロバブルの挙动は、気泡内のガス分子が小さな気泡から大きな気泡へ拡散していく拡散律速*5 型オストワルト熟成であり、定量的に予测、説明できることが分かりました(図1)。
今回の発见は、気泡を多数、分散させた系に特有の现象です。応用上、マイクロバブルは水中に多数分散させた状态で利用することが多いですが、これまでの気泡半径の时间変化についての研究の多くは単一気泡のみを考えたものでした。そのため、多数の気泡を同时に扱う本研究の视点は、新しいものです。この発见が、ナノバブルの存在を理论的に説明する足掛かりになることが期待されます。またマイクロバブル水を产业利用する场で、気泡サイズの制御に関する技术革新に寄与するものと考えられます。
なお、この研究成果は、米国物理協会雑誌「The Journal of Chemical Physics(論文誌)」(2022年12月28日)に掲載されました。
用语解説
*1 マイクロバブル:直径1マイクロメートルから100マイクロメートルの気泡。ファインバブルとも呼ぶ。(1マイクロメートル=1000分の1ミリ)
*2 ナノバブル:直径1マイクロメートルよりも小さい気泡。ウルトラファインバブルとも呼ぶ。
*3 オストワルト熟成:飽和結晶溶液中で結晶粒子が多数ある時に小さい粒子がより小さくなっていき、大きい粒子がより大きくなっていく現象。水中の油滴や合金系などでも同様の現象が見られる。
*4 半径速度:気泡の半径が変化していく速度。膨張していくときに正となり、収縮するときに負となる。
*5 拡散律速:拡散が動力学の中で最も遅く、拡散がボトルネックとなって動力学の速度が遅くなっていること。
论文情报
雑誌:The Journal of Chemical Physics
タイトル:Ostwald ripening of aqueous microbubble solutions
著者名:Sota Inoue, Yasuyuki Kimura, and Yuki Uematsu
DOI:10.1063/5.0128696
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