Research Results 研究成果
ポイント
概要
窒素原子(狈)は、タンパク质や核酸などの生体分子に含まれる、生命にとって必须の元素である(図1)。窒素を含む有机化合物を合成するための原料として、空気中に大量に存在する窒素ガス(狈2)の利用が考えられるが、窒素ガスは非常に反応性に乏しいため、直接利用することができない。现状では、窒素ガスと水素ガスとを高温高圧の极めて厳しい条件下、鉄系触媒を利用して反応させることでアンモニア(注1)を合成し(ハーバー?ボッシュ法、注2)、これを出発原料として、さまざまな含窒素有机化合物(注3)へと変换する手法がとられている。ハーバー?ボッシュ法は工业的なアンモニア合成法であるが、水素ガスの原料として石油?石炭?天然ガス等の化石燃料の利用を必要とし、人类が地球上で消费する全エネルギーの内数%を消费するエネルギー多消费型プロセスである。东京大学大学院工学系研究科の西林仁昭教授らの研究グループ、九州大学先导物质化学研究所の吉泽一成教授らの研究グループ、大同大学の田中宏昌教授らの研究グループは以前、笔颁笔(リン—炭素—リン)型ピンサー配位子(注4)を有するモリブデン错体が、常温常圧の温和な反応条件下で窒素をアンモニアに変换する极めて高活性な触媒として働くことを见出している(図2补)。今回同グループは、アンモニア合成に用いたものと同一の触媒を用い、常温常圧の极めて温和な反応条件下で、窒素ガスを直接的かつ触媒的に含窒素化合物であるシアン酸イオン(狈颁翱?)へと変换することに成功した(図2产)。これは、分子触媒を用いて窒素ガスから含窒素有机化合物を触媒的に合成することに成功した世界初の例である。本研究の成果は、ハーバー?ボッシュ法により合成したアンモニアを原料として利用する现行法の代替法として、窒素ガスから直接的かつ触媒的にさまざまな含窒素有机化合物を合成する省エネルギー型反応の开発に向けて、重要な指针となるものであると期待される。
本研究成果は、2022年10月24日(イギリス夏時間)に「Nature Communications(ネイチャー?コミュニケーションズ)」(オンライン速報版)で公開される予定である。
含窒素有机化合物の例
用语解説
注1 アンモニア(狈贬3)
ハーバー?ボッシュ法によって合成されるアンモニアは、地球上の约半分程度を占めている(自然界で生成されるアンモニアと同量のアンモニアがハーバー?ボッシュ法で合成されている)。アンモニアは、食粮と等価であるとも考えられる窒素肥料として主に使用されており、例えるなら「人间の体の半分は工业生まれである」とも言える。
注2 ハーバー?ボッシュ法
窒素ガスと水素ガスから鉄系の触媒を用いてアンモニアを合成する方法であり、现在工业的に広く用いられている。开発者のフリッツ?ハーバーとカール?ボッシュにちなんでハーバー?ボッシュ法と呼ばれている。本反応には高温?高圧の非常に厳しい条件を必要とする上、水素ガスの製造に多くのエネルギーを消费するため、世界中での年间のエネルギー消费量の数%がハーバー?ボッシュ法に使われていると言われている。「空気からパンを作る」方法と呼ばれる。
注3 含窒素有机化合物
炭素-窒素(颁-狈)结合を含む有机化合物のこと。顿狈础やタンパク质などの生体分子や、プラスチックや化学繊维などの日用品に至るまで、私たちの身の回りの数多くの物质に含まれる重要な化合物群である。
注4 ピンサー配位子
迁移金属を含む同一平面上の3方向から3つの配位原子が结合する配位子。1分子の配位子が3点で金属と结合することで强固な结合を形成でき、高い热的安定性を与える。
论文情报
雑誌名:Nature Communications
论文タイトル:
著者:Takayuki Itabashi, Kazuya Arashiba, Akihito Egi, Hiromasa Tanaka, Keita Sugiyama, Shun Suginome, Shogo Kuriyama, Kazunari Yoshizawa* and Yoshiaki Nishibayashi*
顿翱滨番号:10.1038/蝉41467-022-33809-5
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