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Research Results 研究成果

体の「痛い」を脳から治す

―疼痛関连神経回路をターゲットとした神経障害性疼痛の新たな治疗戦略― 2022.07.19
研究成果Life & Health

ポイント

  • 慢性疼痛に対して一次体性感覚野アストロサイトの活动を人為的に操作する治疗法を确立。
  • アストロサイトを活性化させることで、疼痛関连のスパインが除去され、痛覚过敏を起こさない神経回路への组み换えができることを明らかにした。

概要

 神経障害性疼痛1)は耐えがたい痛みが続く難治性疾患です。しかしその治療法は確立されていませんでした。今回、自然科学研究機構 生理学研究所の鍋倉淳一所長、名古屋大学医学研究科分子細胞学竹田育子助教(研究当時:生理学研究所研究員)、九州大学大学院薬学研究院津田誠教授、山梨大学医学部薬理学講座小泉修一教授および北里大学医療衛生学部江藤圭講師らの研究グループは、神経障害性疼痛の新たな治療戦略を明らかにしました。本研究結果は、Nature Communications 誌(2022 年7 月14 日号)に掲載されました。

図左:通常のマウスでは触覚回路と痛覚回路が分かれているが、末梢神経を障害することで神経回路の編成が起こり、痛覚関連神経回路が形成される。 図右:痛覚関連神経回路は触刺激により痛みを誘導するが、末梢からの痛みの入力を抑制した上で一次体性感覚野のアストロサイトを活動させると、触刺激により痛みの誘導が起こらなくなる。この作用機序として疼痛関連神経回路の形成時期に形成されたスパインを多く除去し、疼痛関連神経回路から新たな回路への組み換えが示唆される。

内容

 神経障害性疼痛(慢性疼痛)は急性疾患后に耐えがたい痛みが続く难治性疾患です。通常、触覚を伝える神経回路と痛覚を伝える神経回路は分かれていますが、神経障害性疼痛では、外伤、糖尿病、ヘルペスウイルスなど様々な原因により末梢神経が障害を受けることで神経回路の编成が起こり、触っただけで痛いと感じる痛覚関连神経回路が形成されてしまっている状态と考えられています。通常の镇痛薬では効果が乏しく、リハビリテーションや経头盖直流电気刺激などを组み合わせた治疗が行われているものの、その根治疗法は未だ确立されていません。
 锅仓グループは脳内の细胞の一种であるアストロサイト2)(グリア细胞)に注目し、新たな治疗法の开発に取り组みました。アストロサイトはシナプス3)の形成?除去に作用し、神経回路を组み换えるために重要であると考えられています。
 本研究では、神経障害性疼痛モデルマウスにおいて末梢神経からの疼痛入力を薬剤で一過性に抑えた状態で、一次体性感覚野4)のアストロサイトを経頭蓋直流電気刺激5)や人工的受容体の一種であるDREADD(Designer Receptors ExclusivelyActivated by Designer Drugs)6)により人為的に活性化させました。その結果、治療中のみならず治療後長期間に渡って疼痛改善効果の持続が確認されました。この作用機序を神経回路の観点から探ったところ、アストロサイトの活性化により、一次体性感覚野の神経回路のつなぎ目であるスパインが除去されていること、特に疼痛形成の時期にできたスパインが除去されやすいことが明らかになりました。この結果から、疼痛入力を抑制した状態でアストロサイトを活性化させると、疼痛関連スパインが除去され、疼痛関連回路の編成組み換えが起こ
っていることが示唆されました。组み换えられた一次体性感覚野の神経回路は异痛症(アロディニア)7)を起こさない回路になっていると考えられます。
 鍋倉所長は「今回の研究で、痛みに関連した神経回路が人為的操作により組みかわり、回路の編成により痛みが治癒することがわかりました。現在、臨床医療において慢性疼痛の治療に使われている薬剤投与と経頭蓋直流電気刺激という2 つの手法を組み合わせることによって、より効率的に痛覚過敏を除去できる可能性を示すことができました。個別には既に臨床医療において用いられている手法なので、近い将来、人に応用可能な治療法の開発につながる成果だと期待できます。」と話しています。

用语解説

1) 神経障害性疼痛(慢性疼痛)
けがなどが完治した后も痛みが慢性的に続く状态を慢性疼痛と呼びます。その中で感覚神経の障害によって引き起こされる慢性的な疼痛を神経障害性疼痛と呼びます。原因は外伤、糖尿病、ヘルペスウイルスなど多种多様であり、原因疾患が治癒后も痛みのみが続く场合があり、通常の镇痛薬
では効果が乏しく、多くの患者さんが本疾患で苦しんでいます。痛みの性状として痛覚过敏、自発痛、そしてアロディニアが挙げられます。
2) アストロサイト
中枢神経系に存在するグリア细胞の一种。神経细胞を补助する作用が知られていましたが、近年はシナプスの形成?除去に作用し、神経回路を组み换える作用が注目されています。
3) シナプス
神経细胞同士のつなぎ目。シナプスにより情报が伝达されます。
4) 一次体性感覚野
大脳皮质の一部で、末梢からの触覚や疼痛などの感覚情报を処理する部位。末梢神経障害时には神経回路の编成を起こすことが示されています。
5) 経頭蓋直流電気刺激
头盖骨の上から微弱な直流电流を流して脳を刺激する方法。うつ病などの治疗に用いられています。アストロサイトの活动を起こすには更に微弱な电流での刺激となります。
6) DREADD
人工的な受容体で、内在性の物质には反応せず、人工的に合成された特定の物质のみに反応するように作られています。
7) 異痛症(アロディニア)
触刺激(触った等)が痛みとして感じられる状态。

论文情报

タイトル:
著者:Ikuko Takeda, Kohei Yoshihara, Dennis L. Cheung, Tomoko Kobayashi, Masakazu
Agetsuma, Makoto Tsuda, Kei Eto, Schuichi Koizumi, Hiroaki Wake, Andrew J.
Moorhouse, Junichi Nabekura
掲載誌:Nature Communications. 2022 年 7 月14 日
DOI:doi.org/10.1038/s41467-022-31773-8

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