Research Results 研究成果
ポイント
概要
独立行政法人国立科学博物馆(館長:篠田謙一)の森田航研究員(人類研究部人類史研究グループ)、九州大学の三浦岳教授らからなる研究グループは、マウスの上顎と下顎の臼歯の形成パターンが、それぞれストライプ(縞)模様、スポット(水玉)模様を生み出す数理モデルにより再現できることを示しました。進化の過程で草食や肉食に特化したものが生まれ、哺乳類の食性が多様化していったこととの関連が示唆されます。本研究成果は2022年6月14日に国際科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
図1(上)活性因子と抑制因子が拡散しながら相互作用することで、ストライプ模様もしくはスポット模様が生じる。 (下)哺乳類の食性とストライプ?スポット模様の違いとの対応関係
研究の背景
哺乳类は様々な环境に生息し食性も多様であるため、バラエティーに富んだ歯の形を持っています。歯は、様々な遗伝子が相互作用することにより形成されます。しかしその作用はあまりに复雑なので、発生过程を详らかにすることはできていません。1952年英国の数学者アラン?チューリングは、复雑な生物の形の発生过程を、相互作用しながら拡散していく活性因子と抑制因子というたった二つの因子によって大胆なモデル化を试みました。この数理モデル(数式により现象を単纯化したもの)は、チューリング?モデルと呼ばれ、一定のアルゴリズムに従って复雑な形态が自然発生的に生じます。その后の研究により、様々な生物の形态形成のモデル化が行われています。
平面でのパターン形成において、チューリング?モデルでは、大まかにストライプ(縞)模様、もしくは、スポット(水玉)模様のどちらかが生じます。今回私たちの研究グループは、一般的な実験动物であるマウスの上下の臼歯が、それぞれストライプ模様、スポット模様に対応して形成されているのではないかと仮説を立てモデル化を试みました(図1上)。
図2 上顎臼歯(上)と下顎臼歯(下)の発生過程のモデル化
研究の内容
まず、上下の臼歯の形态がストライプ模様とスポット模様のどちらに近いのかを示すため、3次元モデルから形状の违いを抽出して统计的に検証し、上顎臼歯はストライプ模様、下顎臼歯はスポット模様に対応することを示しました。次に、マウスの歯胚の成长速度を测定し、この実际の成长速度をもとに、チューリング?モデルをベースにコンピュータ内で上下顎の臼歯の形态形成をシミュレートしました。そして、ストライプ模様のモデルでは上顎臼歯が、スポット模様のモデルでは下顎臼歯がうまく形成されることを示しました(図2)。
このようなマウスで见られた上下の臼歯の形态形成パターンの违いは、哺乳类の食性の违いにも対応し多様な形态を生じさせた要因になったことを示唆します(図1下)。哺乳类は进化の过程で、咬头(歯の中で山のように高まった部分)の数が少なく単纯な形の歯から、多数の咬头が复雑に配置された歯へと変化していきます。このように复雑で発达した稜线を持つ臼歯形态が草食性を可能にし、哺乳类の适応放散へとつながります。本研究が示した、歯の形态形成メカニズムにおけるスポット模様とストライプ模様の柔软な切り替えが哺乳类の臼歯に见られる様々な形を生み出し、食性の多様化(草食?肉食に特化した动物の出现)をもたらしたと考えられます。
本研究では、歯の形态形成メカニズムで働く因子を大まかに活性因子と抑制因子の2つに分けてモデル化しました。このモデル化により歯の形态学的な分类の再検讨や、形态の违いがどのような発生メカニズムに基づくのかについての研究が进展することが期待できます。いくつかの候补はわかってきていますが、具体的にどの遗伝子や、歯の形成に使われるタンパク质が、モデル上の活性因子と抑制因子に割り振られるのかの検証は今后の検讨课题です。哺乳类进化の过程では歯种の分化も生じるため、歯种の违いとストライプ?スポットの违いがどのように関わっているかも今后明らかにしていきます。
论文情报
表题:
著者:Wataru Morita, Naoki Morimoto, Keishi Otsu, Takashi Miura
掲載誌:Scientific Reports, 41598 Article number: 13539 (2022)
DOI:10.1038/s41598-022-13539-w
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