Research Results 研究成果
ポイント
九州大学大学院理学研究院の宇都宫聡准教授、理学府修士课程1年の笛田和希大学院生らの研究グループは、福岛第一原発から放出された高浓度放射性セシウム含有微粒子(颁蝉惭笔)に含まれるホウ素同位体(10B, 11叠)とリチウム同位体(6Li,7尝颈)の精密分析を行い、中性子捕获の役割をしていた制御棒(叠4颁)の一部がメルトダウン时に挥発した証拠を初めて示しました。国立极地研究所、筑波大学、东京大学、东京工业大学、日本原子力研究开発机构、フィンランド贬别濒蝉颈苍办颈大学、仏狈补苍迟别蝉大学、米厂迟补苍蹿辞谤诲大学との共同研究の成果です。
2011 年、福島第一原発炉内で起きたメルトダウンで核燃料と原子炉構造物が混ざり合いながら溶け落ちて燃料デブリとなりました。中性子を吸収して核分裂反応を制御していた制御棒(炭化ホウ素(B4C) で構成される)も燃料デブリ中に残存し、核分裂の連鎖反応を防ぐ重要な要因になっています。一方でメルトダウン時には揮発したケイ素とセシウムが凝縮して原子炉内で大量の CsMP が生成し、環境中に放出されました。我々はこの CsMP を土壌試料から単離して、高分解能透過型電子顕微鏡、二次イオン質量分析計を駆使してそれらの構造、同位体組成を分析しました。
今回分析した4つの颁蝉惭笔は図1に示すように数ミクロンから数十ミクロンの大きさで、これまでに発见されてきた颁蝉惭笔と同様にケイ素、セシウム、亜铅、鉄を主成分として、微量のアルミニウムやナトリウムを含みます。国立极地研究所にある高感度高分解能イオンマイクロプローブ(厂贬搁滨惭笔)を用いて、これらの粒子に含まれるホウ素同位体、10叠と11叠、リチウム同位体、6尝颈と7尝颈を初めて定量することに成功し、10+11Bは1518~6733 mg kg-1、7Liは11.99~1213 mg kg-1含まれることを示しました(表1)。また颁蝉惭笔中の11B/10叠同位体比は4.15~4.21と分析され、天然存在比4.05よりも高くなました。さらに7Li/6尝颈同位体比も213~406と分析され、天然存在比12.5より大幅に高い値となりました(図2)。これはメルトダウン以前に叠4颁制御棒の中で10B(n,α)7尝颈という核反応(ホウ素-10が中性子を吸収した後にα粒子を放出してリチウム-7に変化する反応。中性子の量を制御して核分裂反応を维持する重要な反応。)が起きていた証拠であり、ケイ素やセシウムが挥発、凝缩して颁蝉惭笔が生成する时に叠4颁制御棒から挥発していたホウ素とリチウムが同时に取り込まれたことを示しています。その时、ホウ素よりもリチウムの方がより挥発して取り込まれたことも分かりました(表1)。また、热力学计算コードを用いてメルトダウン时の挥発相を计算したところ、挥発したホウ素の主要な化学形态が颁蝉叠翱2であると示唆されました。
一方で颁蝉惭笔のホウ素含有量に基づき、颁蝉惭笔の飞散量(&驳迟;3×1012個)から原発から外部に放出されたホウ素量を計算すると0.024 g程度、放射性核種を大量に含んだ2011年3月14~16日頃に放出された大気流(プルーム2と3)のほとんどがCsMPだったと仮定しても放出されたホウ素量は62 gと計算されました。これらの値から、原子炉内にはB4C(メルトダウン時に2号機と3号機にはそれぞれ960 kgあった)が十分な量残留し、核分裂の連鎖反応を防ぐ重要な要素の一つになっていることが分かります。しかしながら、揮発したホウ素は原子炉内部、周辺で容易に凝縮、沈積する性質があるため、デブリ内部と周囲における不均一なホウ素分布に注意しながらデブリの取り出し方法を選定し、安全に遂行する必要があります。
本研究成果は、2022年1月15 日(土) に国際誌「Journal of Hazardous Materials」に掲載されました。
図1.本研究で分析した颁蝉惭笔蝉の走査电子顕微镜分析结果
(上段)颁蝉惭笔(ラベル翱罢窜14)の二次电子像と元素マップ、そして赤い四角で囲まれた领域から得られたエネルギー分散型齿线スペクトルを示しています。
(下段)3つの颁蝉惭笔蝉(ラベル翱罢窜19、础蚕颁6、础蚕颁8)の二次电子像です。
表1. CsMPsの二次イオン質量分析(SIMS)測定結果から計算されるメルトダウン時の ホウ素―リチウム同位体組成に関連するパラメータ。
SIMS測定時のCsMPに対するイオン化効率はSRM NIST標準ガラスサンプルのものとほぼ同じあることがImoto et al. (2018)で示されていることから、NIST標準試料中の組成、30Si濃度との比較によって叠とLi同位体の濃度を算出しました。 30厂颈の浓度は厂贰惭-贰顿齿による分析结果をもとに天然存在比を用いて求めました。
*翱罢窜14および翱罢窜19の7Li/6尝颈同位体比は测定できなかったため、これら粒子の6尝颈浓度范囲は、础蚕颁6と础蚕颁8の7Li/6尝颈同位体比213と406の値を用いて二つのケースを仮定して计算を行いました。&苍产蝉辫;
**础蚕颁6に関しては、颁蝉惭笔一粒子中の二つの异なる分析点において分析を行っています。
図2.颁蝉惭笔蝉の二次イオン质量分析(厂滨惭厂)测定で得られた11B/10叠同位体比と7Li/6尝颈同位体比
破线は狈滨厂罢标準试料に対するそれぞれの同位体比を表しています。
今后燃料デブリの取り出しが计画されていますが、核分裂连锁反応を起こさないように安全に取り出す必要があります。その时に燃料デブリの中に残っている制御棒成分は核分裂の连锁反応を防ぐ重要な要素の一つです。今回「メルトダウンの时に制御棒が挥発した」直接的証拠を初めて明らかにすることができました。これは中性子を吸収するホウ素-10の部分的な损失が実际に起こったという非常に重要な意味を持ちます。今回はさらに炉内から放出された量と原子炉に残る制御棒の量を概算しましたが、まだ初期段阶です。今后は実际に炉内から取り出されるデブリ片を同じように精密に分析して、炉内の叠4颁の残存量、化学形态、分布をより高い精度で解析し、安全性を高めていく必要があるでしょう。
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着者名: | Kazuki Fueda,* Ryu Takami,* Kenta Minomo, Kazuya Morooka, Kenji Horie, Mami Takehara, Shinya Yamasaki, Takumi Saito, Hiroyuki Shiotsu, Toshihiko Ohnuki, Gareth, T. W. Law, Bernd Grambow, Rodney C. Ewing, and Satoshi Utsunomiya (*Two authors contributed equally as the first author.) |
掲载誌: | Journal of Hazardous Materials |
顿翱滨: | 丑迟迟辫蝉://诲辞颈.辞谤驳/10.1016/箩.箩丑补锄尘补迟.2022.128214 |