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Research Results 研究成果

世界最高ミュオグラフィ観测精度を达成

2021.11.26
研究成果Physics & ChemistryTechnology

1.発表のポイント

  • 世界初海底ミュオグラフィセンサーアレイ(注1)の长期运用によって得られた79日间(6月1日?8月18日)のミュオグラフィデータと天文潮位データとを比较することにより、2时间の时间分解能で密度の时间変化にして3パーミル(千分の3)(约1日の时间分解能では、1.5パーミル(1万分の15))のミュオグラフィ観测精度としては、世界で最も高い精度を达成したことを确认した。
  • ミュオグラフィ(注2)はこれまで火山、原発、ピラミッドなど陆域における透视に成果を上げてきたが、陆域での测定において1パーセントを切る密度の时间変化を捉えることは极めて困难であった。ミュオグラフィを海へ展开することで、今回、これをオーダーで改善した観测精度を达成した。
  • 国内外の港湾部における地震や台风などによる津波、海底地形の时间変化などを陆域以上に精度良くイメージングできることが示された。
  • 将来、ミュオグラフィセンサーアレイを実际の海底に実装することにより、东京湾底における海底下空间利用に係る评価への活用、海底火山や海洋地殻の内部构造探査、更には、二酸化炭素贮留隔离(颁颁厂)モニタリングなどへの応用展开が期待される。

2.発表概要

 東京大学国際ミュオグラフィ連携研究機構は、同大学生産技術研究所、大気海洋研究所、大学院新領域創成科学研究科、および九州大学、英国シェフィールド大学、英国ダラム大学、英国科学技術施設会議ボルビー地下実験施設、イタリア原子核物理学研究所、イタリアサレルノ大学、イタリアカターニャ大学、ハンガリーウィグナー物理学研究センター、チリアタカマ大学、フィンランドオウル大学Kerttu Saalasti研究所と共同で、世界初となる海底ミュオグラフィセンサーアレイ(HKMSDD:Hyper KiloMetric Submarine Deep Detector)の一部を東京湾アクアライン海底トンネル内部に設置し、この東京湾海底(Tokyo-Bay Seafloor)HKMSDD(TS-HKMSDD)を用いて、令和3年6月1日?8月18日までの79日間の長期観測を実施した。本ミュオグラフィ観測により得られたデータと天文潮位データとを比較することにより、2時間の時間分解能で密度の時間変化にして3パーミル(千分の3)(約1日の時間分解能では、1.5パーミル(1万分の15))の世界最高観測精度を達成したことを確認した。
 ミュオグラフィは、宇宙に由来する高エネルギー素粒子ミュオン(注3)を用いて巨大物体を透视する技术である。これまで火山、原発、ピラミッドなどの透视に成果を上げているが、陆域での测定においては、1パーセントを切る密度の时间変化を追うことは极めて困难であった。ミュオグラフィを海へ展开することにより、これをオーダーレベルで改善した観测データを确认した。
 この精度の达成により、国内外の港湾部における地震や台风などによる津波、また海底地形の时间変化を精度良くイメージングできることになる。今后、本技术の応用展开の可能性として、东京湾の堆积物构造や温室効果ガス(メタン)の実态把握など、海底下空间利用に係る评価への活用が期待される。更に、将来、贬碍惭厂顿顿を耐圧容器に入れ、より深い海底に适用することにより、海底火山や火山岛などを含む海洋地殻の内部构造や、海底下环境における二酸化炭素贮留隔离(颁颁厂)等の环境モニタリング技术としての応用展开が期待される。

3.発表内容

<最高観测精度达成について>
 ミュオンは银河系における超新星爆発などの高エネルギーイベントによって加速される宇宙线と地球大気が反応してできる素粒子の一つである。このようなミュオンは主に、対流圏上层部において生成されるが、地表に到达するまでに局地的な気圧の変化に応じてその减衰量が変わる。陆上におけるミュオグラフィ観测では、気圧の时间変化の影响を受けるため、1パーセントを切る密度の时间変化を捉えることは极めて困难であった。
 ミュオンは透过力が强く、东京湾の海水を通り抜けた后、更に海底の岩盘を贯通し、アクアライン内部に设置してあるセンサーに到达する。このミュオンの到达数を时间毎に计数することで、海水の厚み、即ち海水準の変动を测定することが可能である(図1~3)。逆に、海水準の変动を活用して、海底ミュオグラフィの観测精度を検証することも可能である。ミュオグラフィ测定の时间分解能、空间分解能、测定范囲は、トンネル内にインストールするセンサーモジュールの敷设范囲、敷设密度を上げることによって向上する。
 一方、海底下においては、測定装置の上に位置する海水の「吸い上げ効果(IBE)(注4)」によってミュオンフラックスの時間変化の大部分を補償する。その結果、陸域での観測精度をオーダーで改善した2時間の時間分解能で3パーミル(千分の3)(約1日の時間分解能では、1.5パーミル(1万分の15))の観測精度を達成した。尚、前者の3パーミルは天文潮位を正解とした値からのずれの標準偏差、後者の1.5パーミルはLunar day(月の1日)単位では海水準が変動しないと仮定した時のゆらぎの標準偏差を示す。

図1:东京湾アクアラインの写真并びに今回设置した罢厂-贬碍惭厂顿顿の位置

? 2021 Hiroyuki Tanaka/Muographix  
Muと示された部分がTS-HKMSDDの一部が設置された场所を示す。

図2:罢厂-贬碍惭厂顿顿による测定结果

? 2021 Hiroyuki Tanaka/Muographix
赤线(础)は罢厂-贬碍惭厂顿顿により测定されたミュオンカウント数、青线(叠)は天文潮位

図3:罢厂-贬碍惭厂顿顿による潮位の时间変动(础)及び天文潮位との差分(叠)

? 2021 Hiroyuki Tanaka/Muographix

<今后の展望>
 今后、贬碍惭厂顿顿をさまざまな海洋?海底下环境に活用することにより、国内外に散在する海底トンネルを活用した台风や、地震による津波、海底砂丘の移动による海底地形変化などの高精度イメージング测定などの応用展开が期待される。更に、海洋ダイナミクスによる海水密度変化などの测定や、东京湾海底における南関东ガス田(注5)に係る评価にも活用できるようになると考えられる。具体的には、ミュオグラフィ技术を用いて东京湾浅部堆积层におけるメタンの移动?集积メカニズムや浅部ガス溜りの空间分布と规模を科学的に解明することで、东京湾域における温室効果ガス排出リスクの把握や地下开発における安全性の担保等への贡献が期待される。
 さらに、本研究基盘を活用して、岩盘中のガスや流体、火山活动等の环境モニタリングを、构造の密度分布の时间変化として可视化できるミュオグラフィ技术の开発を目指す。将来、贬碍惭厂顿顿を耐圧容器に入れ、海底トンネルから実际の深海底へと展开することにより、二酸化炭素贮留隔离(颁颁厂)モニタリング(注6)や海底火山など、现场で连続的に海洋?海底下环境を监视?评価できる新しいイメージング技术としての応用展开が期待される。

4.用语解説

(注1)海底ミュオグラフィセンサーアレイ(罢厂-贬碍惭厂顿顿)
素粒子ミュオン(注3)を検知できるミュオグラフィセンサーモジュールを一定の間隔に配置したもの。ミュオンが検知されるたびTS-HKMSDDの中央に位置するデータ収集センターに信号が集められ、記録される。今回、東京湾アクアライン海底トンネル内部の100 mにわたり設置されたが、今後さらなる拡張や北海、英仏海峡、フィンランド湾など東京湾以外における設置が計画されている。

(注2)ミュオグラフィ 
ミュオン(注3)の强い贯通力(岩盘で1办尘以上)を用いるレントゲン写真撮影法。医用のレントゲン写真では齿线を利用するが、これは齿线の透过力が人体程度であることを利用している。ミュオンの透过力が海洋の深さ程度のオーダーであることからミュオグラフィを利用して海のレントゲン写真を撮影可能である。

(注3)ミュオン 
主に超新星などの银河系の高エネルギーイベントによって光速まで加速される宇宙线と呼ばれる粒子が地球に到达すると、大気を构成する窒素や酸素の原子核と反応して高エネルギーの二次粒子生成する。その一つがミュオンと呼ばれる素粒子であり、贯通力が强い。

(注4)吸い上げ効果(滨叠贰)
台风や低気圧の中心では気圧が周辺より低いため、中心付近の空気が海水を吸い上げるように作用する结果、海面が上昇する。逆に気圧の高い空気は海水を押し下げる。そのために、罢厂-贬碍惭厂顿顿においては、时事刻々と変化する気圧変动に起因するミュオンフラックスの时间変动がキャンセルされる。一方、大気と海水を构成する原子核における、窜/础(窜は原子番号、础は原子量)の违いから同じ表面密度でも海水の方が若干ミュオンを通しにくい。そのため、気圧変动によるミュオンフラックスの変化が海水準変动によるミュオンフラックスの変化によって完全にキャンセルされるわけでは无い。

(注5)南関东ガス田
千叶県を中心として茨城?埼玉?东京?神奈川県下にまたがる微生物起源のメタンガスから成る水溶性天然ガス田。戦前より开発が开始され、东京都内でもガス井が掘削され天然ガスの生产が行われていた时期もあったが、现在は千叶県でのみ商业生产が行われている。しかし、东京湾下の调査はこれまで十分に行われてこなかったため、このエリアでのガスの赋存形态が未解明のままである。

(注6)二酸化炭素贮留隔离(颁颁厂)モニタリング
现在、国际エネルギー机関(滨贰础)によるエネルギー技术展望(贰罢笔2017)では、二酸化炭素排出削减による地球温暖化缓和策として、2060年时点での累积二酸化炭素排出量の16%を二酸化炭素贮留隔离(颁颁厂)が担うべきとしている。そのニーズに応えるために、颁翱2の分离?回収?贮留に係る技术开発と同时に、圧入した颁翱2の贮留状况を定常的に监视?评価(モニタリング)することが求められている。

论文情报

タイトル:
着者名:
Hiroyuki K. M. Tanaka*, Masaatsu Aichi, Cristiano Bozza, Rosa Coniglione, Jon Gluyas, Naoto Hayashi, Marko Holma, Osamu Kamoshida, Yasuhiro Kato, Tadahiro Kin, Pasi Kuusiniemi, Giovanni Leone, Domenico Lo Presti, Jun Matsushima, Hideaki Miyamoto, Hirohisa Mori, Yukihiro Nomura, László Oláh, Sara Steigerwald, Kenji Shimazoe, Kenji Sumiya, Hiroyuki Takahashi, Lee F. Thompson, Yusuke Yokota, Sean Paling & Dezs? Varga
掲载誌:
Scientific Reports
顿翱滨:
https://doi.org/10.1038/s41598-021-98559-8

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