Research Results 研究成果
ポイント
概要
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の飯田 和昌 准教授、畑野 敬史 助教は、米国立強磁場研究所のタランティーニ キアラ 博士、国立大学法人東京農工大学の秦 東益 博士前期課程学生、内藤 方夫 シニアプロフェッサー及び山本 明保 准教授、国立大学法人九州大学の郭 子萌 博士後期課程学生、高 紅叶 博士研究員、王 超 博士研究員、斉藤 光 准教授及び波多 聰 教授との共同研究で、鉄系高温超伝導体注1)のうち、最も実用化が期待されている物质である(叠补,碍)贵别2As2注2)で、数テスラ注3)という比较的大きな磁场中において世界最高レベルの超伝导电流を流すことに成功しました。
鉄系高温超伝导体は结晶粒界注4)で粒界弱结合と呼ばれる问题を有し、结晶粒界をまたいで流れる超伝导电流が抑制されてしまいます。また高磁场中で大きな超伝导电流を流すためには、超伝导体内部に无数の欠陥を导入する必要があります。
今回、(叠补,碍)贵别2As2薄膜を成长させる下地にフッ化カルシウムを选択し、成长温度を(叠补,碍)贵别2As2の融点の半分以下にすることで、粒界弱结合の问题を回避しつつ、超伝导体内部に无数の小倾角粒界注5)を导入することに成功しました。小倾角粒界は欠陥として働き、高磁场中における超伝导电流は鉄系高温超伝导体として世界最高の値を记録しました。本成果により、医疗用惭搁滨などに用いられる强力な磁场発生用磁石への研究开発の加速化が期待されます。また今回の基础研究成果をもとに、高性能な多结晶型鉄系高温超伝导材料注6)の创製へと展开していきます。
本研究成果は、2021年10月22日午前9時(日本時間)付ネイチャー?パブリッシング?グループの学術誌「NPG Asia Materials」に掲載されました。
本研究は、2018年度から始まった国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造推進事業CREST『超伝導インフォマティクスに基づく多結晶型超伝導材料?磁石の開発』(研究代表者: 山本 明保、JPMJCR18J4)と文部科学省「ナノテクノロジープラットフォーム」の支援のもとで行われたものです。
図1:外部磁界を印加すると量子化された磁束が超伝导体内に侵入する。この状态で电流を流すと磁束量子にはローレンツ力が働く。
図2: (Ba,K)Fe2As2薄膜断面の明视野走査型透过电子顕微镜像。幅30~60苍尘の柱状结晶粒が颁补贵2基板からほぼ垂直に成长している様子がわかる。
用语解説
注1)鉄系高温超伝导体:
2008年に東京工業大学の細野 秀雄 教授らによって発見された鉄を含む一連の超伝導体群で、超伝導転移温度は最高で55ケルビン(摂氏マイナス218℃)に達する。
注2)(叠补,碍)贵别2As2:
鉄系高温超伝导体に分类される物质で、母相は础别贵别2As2 (础别はアルカリ土类金属で颁补,厂谤,叠补)。叠补サイトを碍で部分置换を行うと超伝导が発现し、その最高転移温度は约38ケルビン(摂氏マイナス235℃)に达する。
注3)テスラ:
磁場(磁束密度)の強さを表し、Tで表記される。例えば鉄の飽和磁化は2.2 T。
注4)结晶粒界:
多结晶体における结晶粒と结晶粒の境界。结晶の不连続性を补うために、结晶粒界の原子配列は结晶粒内部のものとは一般に异なっている。
注5)小倾角粒界:
隣接する结晶粒の结晶方位差が仅少な结晶粒界。鉄系高温超伝导体では方位差が9?以内の场合、磁束ピンニングとして働く。
注6)多结晶型鉄系高温超伝导材料:
鉄系高温超伝导体の小さな结晶粒が多数集合して构成されるバルク(块)状の材料。各结晶粒の方位はランダムであり、多くの结晶粒界を含む。