Research Results 研究成果
九州大学大学院医学研究院の山﨑亮准教授、大学院医学府博士課程4年の白石渉らの研究グループは、筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis, ALS)の新たな病態メカニズムとして、末梢神経(※1)に蓄積する異常蛋白が脊髄の運動神経細胞障害に深く関わっており、末梢血由来のマクロファージ(※2)による異常蛋白除去が疾患進行に大きく関わっていることを発見しました。
础尝厂は、国指定の难病で、原因は解明されておらず根治疗法はありません。现在、我が国で约9,200人(平成25年度特定疾患医疗受给者数)の患者さんがいます。多くの方は60-70歳代で発症し、徐々に全身の运动神経细胞が死灭し、発症2?3年で人工呼吸器がないと呼吸ができない状态になると言われている难病中の难病です。
この病気は、运动神経だけが脱落し、感覚神経は大きな障害を受けない点が大変不思议で、そのメカニズムが全く不明なために有効な治疗薬が开発されていませんでした。
今回、研究グループは、础尝厂のモデルマウスである変异厂翱顿1トランスジェニックマウス(※3)の末梢神経を解析し、异常蛋白の蓄积が症状発症のかなり以前から始まっていることに着目しました。この末梢神経には末梢血からマクロファージが大量に浸润していましたが、これらの细胞がどのような働きを持っているのかは不明でした。私达は、これらのマクロファージの浸润をブロックするため、细胞游走因子受容体(颁颁搁2)遗伝子欠损マウス(※4)と础尝厂モデルマウスとを交配し、通常の础尝厂モデルマウスと比较しました。その结果、颁颁搁2遗伝子欠损础尝厂モデルマウスはマクロファージの浸润は抑制されましたが、短命であることが判明しました。このことから、改めて末梢神経に浸润するマクロファージを详しく解析したところ、このマクロファージは异常蛋白を贪食?除去し、炎症を抑制する方向に活性化していることが初めて明らかになりました。
今后、これらのマクロファージ浸润を促进したり、保护的活性化を促进することができれば、础尝厂の発症を予防したり、症状の进行を遅らせることができる可能性があります。
本研究成果は、2021年 8月12日(木)付でScientific Reports誌に掲載されました。
本研究は、日本学術振興会科学研究費(基盤C)JP16K09694, JP19K07963の支援を受けました。
(参考図)筋萎缩性即索硬化症(础尝厂)の新たに発见された机序
末梢神経轴索に蓄积する异常蛋白は、末梢血から浸润するマクロファージより除去される。この「保护的」マクロファージの机能促进が础尝厂の新たな治疗法になる可能性がある。
用语解説
(※1) 末梢神経
人间の神経系は、大脳?小脳?脳干?脊髄からなる「中枢神経」と、末梢の筋肉や感覚受容器と中枢神経系をつなぐ「末梢神経」からなる。解剖学的な区别は、神経细胞の轴索を覆う髄鞘を形成する细胞により行われる。すなわち、髄鞘形成细胞がオリゴデンドログリアなのが中枢神経、シュワン细胞で覆われるのが末梢神経である。主要な运动神経细胞である脊髄前角细胞は、神経细胞体は中枢神経であるが、その轴索が脊髄から出て神経根に至ると、髄鞘形成细胞がシュワン细胞に変化するため、末梢神経となる。つまり、脊髄前角细胞は、细胞体は「中枢神経」、轴索は「末梢神経」により构成されている。
(※2) マクロファージ
血液细胞は赤血球、白血球、血小板からなる。白血球はさらにリンパ球、単球に分类される。単球は分化し树状细胞やマクロファージとなる。マクロファージは贪食作用に特化した细胞で、感染症や外伤などによる组织伤害部位に浸润し、细菌や组织残渣の贪食、クリアランスを行うとされる。
(※3) 変異SOD1トランスジェニックマウス
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、その5%に血縁者に同疾患がみられる(家族性ALS)。家族性ALSのうち、約20%はCu/Zn superoxide dismutase (SOD1)遺伝子変異を認める。SOD1は153アミノ酸からなる細胞質蛋白で、ホモダイマー(二量体)を形成し、有害なスーパーオキシドを酸素と過酸化水素に分解する酵素である。1993年に変異SOD1遺伝子が家族性ALSの原因遺伝子として同定され、その翌年に変異SOD1トランスジェニックマウスがALSと類似の徴候を呈することが確認され、世界初のALSモデル動物として研究されるようになった。本研究では、SOD1(G93A)トランスジェニックマウスを用いた。
(※4) 細胞遊走因子受容体(CCR2)遺伝子欠損マウス白血球が組織へ遊走するためには、組織から放出されるサイトカイン(ケモカイン)と呼ばれる細胞遊走因子を、白血球表面の受容体が感知することが必要である。ケモカインとその受容体は1対1対応ではないことが多いが、単球/マクロファージの遊走に関与するMCP-1(リガンド)とCCR2(受容体)に限っては1対1対応と言われている。そのため、単球の細胞膜上のCCR2が発現しなければ、細胞の遊走に多大なマイナスの影響を及ぼす。MCP-1: monocyte chemoattractant protein-1, CCR2: C-C chemokine receptor type 2