Research Results 研究成果
九州大学生体防御医学研究所の中山 敬一 主幹教授、松本 有樹修 准教授、仁田 暁大 研究員(現 熊本大学?助教)、広島大学大学院医系科学研究科の保田 朋波流 教授、大阪市立大学大学院医学研究科の小澤 俊幸 准教授らの研究グループは、皮膚特異的ノンコーディングRNA(※1)として考えられていたTINCR(※2)から、機能的なタンパク質が産生されていることを明らかにしました。
TINCRは2013年に皮膚特異的に発現するノンコーディングRNAとして同定?報告されていました。そのため、TINCR RNAからタンパク質ができるとは誰も想定していませんでした。
本研究グループは、TINCR RNAの一部の領域がヒトとマウスで高度に保存されており、この領域の配列は、ユビキチン様ドメイン(※3)を持つことを突き止めました。さらに、この領域にタグ配列をノックインしたマウスとタンパク質が翻訳されないノックアウトマウスを作製し、TINCRから翻訳されるタンパク質の存在の確認に成功し、そのタンパク質をTUBL(※4)と命名しました。そこで、TUBLタンパク質過剰発現角化細胞とTUBLノックアウトマウスを作製し、角化細胞とマウス皮膚での機能解析を行いました。その結果、TUBLタンパク質を過剰発現すると、角化細胞の細胞増殖が亢進し、TUBLタンパク質をノックアウトすると逆に細胞増殖が低下しました。また、TUBLノックアウトマウスは皮膚の傷害実験で傷の修復が遅延することが明らかとなりました。さらに、TUBLの分子機能を評価すると、タンパク質分解を制御するプロテアソーム(※5)の構成因子との結合が認められ、プロテアソームを介した細胞周期制御を行っていることが示唆されました。
本研究により、これまではノンコーディングRNAとして考えられてきたTINCRから機能的なタンパク質であるTUBLが産生され、皮膚の角化細胞の細胞増殖に寄与していることが明らかとなりました。本研究成果は、2021年8月5日(木)午後14時(米国東部時間)に国際科学雑誌「PLOS Genetics」で公開されました。なお、用语解説は別紙を参照。
(参考図)TINCR RNAから翻訳されるTUBLタンパク質 2013年にノンコーディングRNAとして報告されて以来、皮膚科学におけるノンコーディングRNAとしての地位を確立してきたTINCRが、実際にはTUBLタンパク質を翻訳しており、これが角化細胞の細胞増殖に機能していることを明らかにしました。
用语解説
(※1)ノンコーディング搁狈础:タンパク质に翻訳されず、搁狈础そのものに机能がある遗伝子の総称です。
(※2)TINCR:Terminal differentiation-Induced Non Coding RNA(TINCR)の略で、皮膚の分化と共に発現が上昇するものとして同定された遺伝子で、これまではノンコーディングRNAと考えられてきました。
(※3)ユビキチン様ドメイン:ユビキチンという76アミノ酸からなるタンパク质に类似した配列を持ち(ユビキチン様)、それが特定の机能や构造をもつことで他とは区别できる领域(ドメイン)の事を指します。
(※4)TUBL:TINCR-encoded ubiquitin-like proteinの略で、TINCRからコードされるタンパク質の名称です。
(※5)プロテアソーム:细胞内でタンパク质を选択的に分解することができる、复数の构成因子からなる巨大な复合体で、様々な生理现象に関与しています。