Research Results 研究成果
九州大学大学院医学研究院の今井猛教授、同大学院医学系学府修士课程1年の岩本昌和大学院生、日本学术振兴会の稲垣成矩特别研究员、理化学研究所の岩田辽访问研究员(日本学术振兴会特别研究员)(研究当时)の研究グループは、匂いを嗅ぐ际に嗅神経细胞で生じる多様な调节作用(抑制性応答、拮抗作用、相乗効果)の仕组みを明らかにしました。
ヒトを含むほ乳類の鼻の中には、空気中の匂い分子を検出するためのセンサー、嗅覚受容体を約400種類(ヒトの場合; マウスでは約1,000種類)揃えた嗅神経細胞があります。これらを組み合わせることで、膨大な種類の匂い分子や、ほぼ無限通りとも言える匂いの混合物を識別することができます。従来、匂い分子は「活性化」された嗅覚受容体の組み合わせによって認識されると考えられてきました。また、匂いの混合物は、活性化パターンの「足し算」として認識されると考えられてきました。本研究では、この定説を検証するため、嗅神経細胞の応答を生きた動物において計測しました。その結果、匂い応答には単純な「活性化」や「足し算」以上の複雑な機構が存在することが明らかになりました。まず、匂い分子は、ある嗅覚受容体を活性化させるだけでなく、しばしば別の嗅覚受容体を抑制することが判明しました。更に、複数種類の匂いを混ぜて嗅がせると、応答が個々の匂い応答の足し算となるとは限らず、拮抗作用によって反応が抑制されたり、相乗効果によって反応が増強されたりすることが明らかになりました。
本研究によって明らかになった匂いの拮抗作用や相乗効果は、复数种类の匂いを混ぜたときに感じられる匂いのハーモニーの基盘になっているものと考えられ、これまでの定説を覆すものです。本成果は今后、香料の开発などにも贡献することが期待されます。
本研究は、新学術領域研究「スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金、持田記念医学薬学振興財団等の助成によって行われました。本成果は、令和2年6月30日(火)(米国時間)に米国のオンライン科学雑誌『Cell Reports』に掲載されました。また、本研究は九州大学および理化学研究所にて実施されました。
(図1)匂い分子は嗅覚受容体を活性化させる场合(赤)と抑制する场合(青)がある。また、匂いを混合すると、低浓度の场合には相乗効果によって応答が増强されることが多く、高浓度の场合には拮抗作用によって反応が阻害?减弱されることが多い。図は嗅神経细胞の応答を示す。
ワインやコーヒーの香りのハーモニーは、长年脳の中枢で生みだされると考えられてきましたが、匂い分子が嗅覚受容体に结合する际に生じる现象であると考えられます。