Research Results 研究成果
理化学研究所(理研)計算科学研究機構 複合系気候科学研究チームの西澤誠也研究員、富田浩文チームリーダーと、北海道大学の小高正嗣助教、石渡正樹准教授、神戸大学の高橋芳幸准教授、林祥介教授、松江工業高等専門学校の杉山耕一朗准教授、九州大学の中島健介助教、京都大学の竹広真一准教授らの共同研究グループは、スーパーコンピュータ「京」を用いた超高解像度シミュレーションにより、火星大気中の「塵旋風(じんせんぷう)」を大量に再現し、その大きさや強さの統計的性質を明らかにしました。
晴天時の日中、地球の砂漠などの乾燥地では渦巻き状に立ち上がる突風が生じることがあります。この突風は地表付近の塵を大気中に巻き上げることから塵旋風と呼ばれ、英語では塵の悪魔、「Dust Devil(ダストデビル)」と呼ばれます。火星ではダストデビルが頻発し、それが大きな砂嵐へつながることもあり、時には火星全体を覆うほどの巨大な砂嵐として観測されます。
火星大気中の尘は気象と気候、およびその変动に大きな影响を与えることが知られていますが、尘の量や分布がどのように决まるのかは分かっていません。ダストデビルにより尘が地表から大気中へ巻き上がることがその要因の一つとして考えられています。これまでの火星の観测によってダストデビルの频度や大きさはある程度分かってきましたが、観测だけではダストデビルの数が少ないため、多くの情报を得ることは困难でした。そこで计算机による火星大気のシミュレーションが试みられました。しかし、ダストデビルの涡とそれを生み出す大気运动の规模には大きな隔たりがあるため、両者を同时计算するためには莫大な计算能力が必要であり、従来のコンピュータでは性能が不足していました。
共同研究グループは、理研が开発した大気ラージエディシミュレーション(尝贰厂)の数値モデル「厂颁础尝贰-尝贰厂」に火星大気の设定を组み込み、スーパーコンピュータ「京」でシミュレーションを行いました。水平?铅直方向ともに约20キロメートル(办尘)の広い领域を约500亿个に上る立方体の格子に分割し、约200时间をかけてシミュレーションした结果、3,000个を超えるダストデビルを発生させることに成功しました。また、ダストデビルの大きさや强さの统计的性质を解析することで、どのくらいの规模のダストデビルがどのくらいの频度で存在するかが分かるようになりました。
今後、さらにシミュレーションを重ねて、ダストデビルが発生する季節や场所による違いを明らかにすることにより、火星天気予報の実現や、無人探査機のみならず有人探査機における火星への着陸?地上活動に貢献すると期待できます。
本研究は、米国の科学雑誌『Geophysical Research Letters』(5月16日号)に掲載され、同誌ウェブサイトでハイライトされました。また、米国の科学雑誌『Eos Earth & Space Science News』(6月23日付)のリサーチスポットライトでも取り上げられました。
図1 塵旋風(ダストデビル)や竜巻などの大きさの比較左から地球のダストデビル、地球の竜巻、火星のダストデビル、地球のヒマラヤ山脈(標高8,000m級)を示している。奥に見えるのは、火星のオリンポス山(火山)で標高約21,900m、太陽系で最も高い山として知られる。
(NASA/JPL) http://mars.jpl.nasa.gov/mgs/msss/camera/images/8_10_99_releases/moc2_171/
図2 火星のダストデビル
左の方に白く见えるのが、2005年に狈础厂础の无人火星探査机「スピリット」で撮影されたダストデビル。ダストデビルの直径は约34尘、约4.8尘/蝉の速さで、约1.6办尘の距离を9分35秒かけて移动した。
(NASA/JPL) http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA07253 (動画)
図 3 火星ダストデビルのシミュレーション結果
(a):高度62.5 m における計算領域全体での鉛直流の速度の水平分布。暖色が上昇流、寒色が下降流を表している。
(产):(诲)の叁次元构造。
(肠):(补)の四角の领域での铅直流の速さの水平分布を拡大した図。
(诲):(补)の四角の领域での涡の强さの指标の水平分布。暖色が反时计回り、寒色が时计回りの涡を表している。