Research Results 研究成果
山口大学大学院医学系研究科の有贺隆行准教授(特命)は、青山学院大学理工学部物理?数理学科の富重道雄教授、九州大学理学研究院の水野大介准教授と共同で、歩行型生体分子モーターであるキネシンのエネルギー入出力を、実験?理论の両面から初めて明らかにしました。
细胞内では多数の生体分子モーターが细胞内のあちらからこちらへと荷物を运んでいます。その一つ、「キネシン」は细胞内の微小管と呼ばれるレールの上を、文字通り歩きながら荷物を运んでいます(図1)。そのために使われる燃料は、生体内のエネルギー通货と呼ばれる「础罢笔」です。キネシンは础罢笔が持つ化学エネルギーを、荷物を运ぶ运动へと変换するため、一つのエネルギー変换装置であるとも言えます。キネシンを始めとする歩行型生体分子モーターの详细な运动のしくみは、近年発达してきた1分子计测技术が明らかにしつつあります。ところが、それらの分子に対するエネルギーの入出力を定量的に评価した研究はありませんでした。
エネルギー変换の理解は大切です。例えば、自动车のエンジンでも、その燃费の良さを定量することによって、限りあるエネルギーを无駄なく使うための改良が行われています。同様の计测をキネシンのような小さい(ナノメートルサイズの)モーターで行おうとすると、「热ゆらぎ」の効果が现れてしまい、これまではうまく定量ができませんでした。今回私たちは、光ピンセット法(2018年度ノーベル物理学赏受赏)の技术をベースに、高速フィードバック制御を导入することで、キネシンのエネルギー入出力を计测する装置を开発し、1分子の歩行型分子モーターであるキネシンの「散逸」を実験的に定量することに初めて成功しました(図2)。さらに我々はキネシンの数理モデルを构筑し、今回の実験结果を计算机シミュレーションと理论计算で评価した结果、キネシンは入力となる化学エネルギーの约80%ものエネルギーを、荷物を运ぶ运动ではなく、分子の内部から散逸していることを明らかにしました。
この结果は一见すると効率の悪いモーターのようにもみえます。しかし、実际にキネシンが働く细胞内は、今回测定した顕微镜の上とは异なるため、まだまだ人类の知らないエネルギー変换の仕组みがあるのかもしれません。それを明らかにすることが今后の课题です。そして、生体の分子モーターから学び得るそれらの知识が、人工の分子モーター设计にも役に立つと期待できます。
図1.细胞内で歩いて荷物を运ぶ生体分子モーター“キネシン”
図2.高速フィードバック制御した光ピンセット法による1分子キネシンの力学応答计测