Research Results 研究成果
九州大学生体防御医学研究所の藤木幸夫特任教授と、井元祐太日本学術振興会特別研究員(現Johns Hopkins University)、本学理学研究院奥本寛治助教、日本女子大学黒岩常祥客員教授(東京大学名誉教授)らは、ミトコンドリアとペルオキシソームの増殖を制御する新たなタンパク質の同定に世界で初めて成功しました。この成果はミトコンドリアとペルオキシソームの分裂増殖メカニズムを解き明かし、23億年をかけて作り上げられた我々真核細胞の基本原理を解明することに繋がる発見になります。
地球上は现在から约23亿年前に起きた大酸化事変以来、高浓度の酸素で覆われています。この酸素を用いて、ミトコンドリアは我々の生命活动に必须なエネルギー(础罢笔)を作り出しています。一方で、エネルギー生产の际には活性酸素と呼ばれる猛毒が生じますが、ペルオキシソームがこれを无毒化しています。すなわち、ミトコンドリアとペルオキシソームは、我々ヒトを含む全ての真核生物が地球上で生存するために必须の细胞内小器官(オルガネラ)です。これらのオルガネラは分裂増殖を続け、23亿年前から代々受け継がれてきました。现在、ヒトでは细胞当り数百个ものミトコンドリアとペルオキシソームが含まれており、これらの増殖异常はパーキンソン病や伴性型副肾白质ジストロフィー(齿-础尝顿)等、重篤な神経疾患の原因であることが明らかになっています。そのため分裂の分子机构解明は基础生物学のみならず、医学などのあらゆる生命科学分野で注目され、重要な课题となっています。
研究チームはこれまで、世界に先駆けてミトコンドリアやペルオキシソームの分裂に重要な分子装置の存在を明らかにしてきました。この装置はリング状构造を形成し、リングの収缩によって膜を分断します(図1)。装置の构成物质や収缩のメカニズムは详しくは明らかにされていませんでしたが、本研究では、この装置を细胞から取り出し、质量分析や细胞构造生物学的解析を进め、装置を构成する新规分裂タンパク质顿驰狈础惭翱1を同定することに成功しました。さらに、顿驰狈础惭翱1は装置の収缩に必要なエネルギーを生み出す重要なタンパク质であることを明らかにしました。自动车や飞行机のエンジンが石油を分解して物理的エネルギーを生み出すのと同様に、オルガネラの分裂においても、顿驰狈础惭翱1が作り出したエネルギーを使って分裂装置が动作しているものと考えられます。
顿驰狈础惭翱1と同様のタンパク质は、ヒトでは脳や生殖器官等の重要な组织でも高度に発现されており、膜分断に関わる根本的なメカニズムの解明のみならず、神経伝达や个体の増殖?生殖等の基本的な生理现象の解明にも発展することが今后期待されます。
本研究成果は、2018年11月6日午前5時(米国東部時間;日本時間6日午後7時)に「Nature Communications」電子版に公開されました。
図1. (A)オルガネラは分裂によって増殖します。本研究で同定されたDYNAMO1は分裂装置収縮のためのエネルギーを生産します。(B)単離されたペルオキシソーム分裂装置の電子顕微鏡写真。(C)単離されたミトコンドリア分裂装置、(D)ペルオキシソーム分裂装置におけるDYNAMO1(緑)の局在。
顿驰狈础惭翱1は膜分断、すなわちオルガネラ増殖、神経伝达、细胞运动といった基本现象を解明する上での键となるタンパク质です。