Research Results 研究成果
ポイント
概要
愛媛大学大学院農学研究科 光延聖教授、同じく農学研究科の内島智貴大学院生(研究当時)は、理化学研究所 加藤真悟上級研究員、広島大学 白石史人教授、日本原子力研究開発機構 徳永絋平研究員、九州大学 濱村奈津子教授、東京海洋大学 牧田寛子准教授らとの共同研究によって、これまで純粋培養が非常に難しかった鉄酸化細菌の培養効率を大幅に向上する方法を確立しました。
鉄をエネルギー源として生きる「鉄酸化细菌」(用语解説1)は、地下水や温泉、湿地など(図3)自然界のさまざまな场所に広く分布し、鉄の酸化反応を通じて地球規模の鉄循環に寄与しています。さらに、彼らが作り出す鉄酸化物(図1)は、ヒ素や銅などの有害元素を強く吸着?固定する能力を持つことから、環境浄化にも応用されています。しかし、このように重要な役割を担っているにもかかわらず、多くの鉄酸化細菌は実験室で純粋培養できず、非常に培養が難しい微生物として知られてきました。実際、陸上環境の独立栄養性鉄酸化細菌の純粋培養(用语解説2)报告は世界で8例程度にとどまっており、その生态解明や工学応用は进んでいません。
本研究チームでは、培地中の酸素、鉄、炭酸の浓度、辫贬や无机栄养塩のバランスが、鉄酸化细菌が生息する环境条件と大きくかけ离れていることが、培养がうまくいかない要因として着目しました。そこで、本研究チームは、环境水を丹念に分析し、现场水质の化学组成を厳密に再现した“オーダーメイド培地法”を考案しました。また酸素と鉄(滨滨)がちょうど良い割合で共存する、鉄酸化细菌の増殖にとって最适な“安全领域”を培地内に设计しました(図4)。その结果、従来法と比べて最大100倍以上高い効率で集积?分离(用语解説3)ができる培养法を确立しました(図2)。この方法は复数の温泉や地下水环境でも高い有効性を示しており、鉄酸化细菌の研究を前进させるとともに、鉄酸化细菌の特性を活かした环境修復技术(バイオレメディエーション; 用语解説4)の开発にもつながることが期待されます。
本研究成果は、英国の科学雑誌「FEMS Microbiology Ecology」に掲載され、令和7年5月5日に先行公開されました。
図3. 本研究の調査地の1つ(島根県大田市)
図4. 従来培地とオーダーメイド培地の図解と実際の培地写真(右)
用语解説
1. 鉄酸化細菌:化学合成鉄酸化細菌は、次式のような酸化還元反応で、鉄(Fe2+)を酸素で酸化し、細胞増殖のためのエネルギーを得る独立栄養性の細菌(バクテリア)であり、主にpH中性から酸性の環境に生息します。
Fe2+ + 0.25O2 + 2.5贬2翱 → Fe(OH)3↓ + 2H+
電子供与体 電子受容体 酸化鉄鉱物の沈殿
鉄酸化によって得たエネルギーを用いて二酸化炭素から有机物を合成し、自らの生育に利用します。代表的な属には骋补濒濒颈辞苍别濒濒补属や厂颈诲别谤辞虫测诲补苍蝉属などがいます。土壌、堆积物、地下水などの环境に広く生息しており、鉄の地球化学的循环に重要な役割を果たしています。酸化によって表面积の大きな酸化鉄鉱物を生成するため、鉄や重金属の固定化を通じて鉱山排水や地下水の环境浄化にも応用される有用微生物です。一方で、多くの鉄酸化细菌は実験室で纯粋培养できず、非常に培养が难しい微生物として分类されてきました。
2. 純粋培養:環境に多様に存在する微生物群の中から、標的の1種類の微生物のみを分離?増殖させる技術です。これにより、遺伝子解析ではわからない各微生物の生理?代謝?生態の特徴を詳細に調べられます。純粋培養は通常、選択培地を用いて行われ、得られた集積培地から希釈を繰り返すことで達成されます。環境微生物のほとんどは未培養(培養条件がわかっていない状態)であり、純粋培養は今なお微生物の代謝研究や工学応用において重要な研究アプローチです。
3. 集積?分離:多様な微生物群から標的とする微生物を濃縮?選抜し、最終的に分離するプロセスです。まず、特定の基質や条件(例:炭素源、電子供与体、pH、温度など)を用いて目的微生物の増殖を促す「集積」培養を行い、これにより標的微生物が他の微生物より優勢になります。その後、選択培地への希釈?塗抹植菌などを用いて、1種の微生物を「分離」培養し、純粋培養を目指します。難培養性微生物の場合、育つ条件が不明であるため、彼らの要求栄養を推測しながら数多くの培養条件を試す必要があります。そのため、集積は単なる作業ではなく、標的微生物の生理?代謝を想像しながら試行錯誤を繰り返す研究活動です。
4. バイオレメディエーション: 微生物の代謝活動を利用して環境中の汚染物質を分解?無害化?固定化する技術です。主に土壌、地下水、排水に含まれる有機汚染物質や無機汚染物質(重金属、ヒ素など)を対象とします。微生物はそれらを炭素源や電子供与体?受容体として利用するなかで、分解して毒性の低い物質に変換、または微生物が作った鉱物などの吸着媒に汚染物質を固定化します。微生物の能力を活用するため、環境負荷が少なく持続可能な修復技術として注目されています。
论文情报
掲載紙:FEMS Microbiology Ecology
題 名:Custom-made medium approach for effective enrichment and isolation of chemolithotrophic iron-oxidizing bacteria (邦訳)独立栄養性鉄酸化細菌の高効率培養を可能とするカスタムメイド培地アプローチ
著 者:Tomoki Uchijima, Shingo Kato, Kazuya Tanimoto, Fumito Shiraishi, Natsuko Hamamura, Kohei Tokunaga, Hiroko Makita, Momoko Kondo, Moriya Ohkuma, Satoshi Mitsunobu* (*責任著者)
D O I :
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