Research Results 研究成果
ポイント
骨内膜ニッチの Alcam※1阳性の骨ライニング细胞※2 (Alcam+ BLC) は、白血病幹細胞※3を治疗抵抗性の「静止状态」に维持する重要な役割を果たしている。
概要
本研究の概要:骨内膜ニッチと血管性ニッチは白血病幹細胞 (LSC) に対してそれぞれ異なる役割を担っています。骨内膜ニッチは白血病幹細胞の静止状態維持に重要な役割を果たしています。一方、血管性ニッチでは白血病幹細胞の活性化と増殖を支持しています。
急性骨髄性白血病 (AML)※7の治疗において、完全寛解※8後の再発は大きな課題となっています。この再発の主な原因の一つが白血病幹細胞 (LSC)の存在です。白血病幹細胞は従来の化学療法に対して高い抵抗性を持ち、治療後も骨髄内に微小残存病変として生存することが明らかになっています。注目すべき点は、白血病幹細胞がニッチと呼ばれる骨髄の微小環境に留まり、細胞周期を静止状態にすることで抗がん薬の作用を回避する特性を持つことです。この白血病幹細胞の特性により、患者が完全寛解に達した後でも、白血病幹細胞が再び活性化して白血病細胞の増殖を引き起こし、再発に至ることがあります。したがって、急性骨髄性白血病の根治的治療を実現するためには、白血病幹細胞とその白血病ニッチを標的とした革新的な治療戦略の確立が必要です。
九州大学大学院医学研究院の新井文用教授、八尾尚幸助教、Ngan Thi Kim Nguyen大学院生らの研究グループは、白血病幹細胞が潜む白血病ニッチについて着目して白血病マウスモデルの解析を行い、骨内膜ニッチに存在するAlcam阳性の骨ライニング细胞(Alcam+ BLC) が、白血病幹細胞を治療抵抗性の「静止状態」に維持する重要な役割を果たしていることを明らかにしました。細胞周期が静止期にある白血病幹細胞は、Alcam+ BLCが豊富な領域に集積していました。さらに、白血病幹細胞から分泌されるTGF-β1がAlcam+ BLCのオステオポンチン (OPN) 産生を促進し、分泌されたオステオポンチンが白血病幹細胞を骨内膜ニッチに留め、静止状態を維持するというTGF-β1/Tgfbr2/OPNシグナル経路を同定しました。これらの知見は、従来の化学療法では排除が困難であった静止期白血病幹細胞を標的とした治療薬開発が可能になると期待されます。
本研究成果は、Nature Publishing Groupの「Leukemia」誌に2025年5月13日(火)(日本時間)に掲載されました。
研究者からひとこと
本研究成果は、白血病干细胞の治疗抵抗性メカニズムの解明において重要な前进をもたらしました。特に、罢骋贵-β1/罢驳蹿产谤2/翱笔狈シグナル経路の同定は、従来の化学疗法では効果が限定的であった静止期白血病干细胞を标的とする革新的な治疗アプローチの开発に直接つながる発见と考えています。
用语解説
(※1) Alcam(Activated Leukocyte Cell Adhesion Molecule、別名CD166)
免疫グロブリンスーパーファミリーに属する滨型膜贯通型接着分子で、细胞间接着や细胞移动の调节に関与している。
(※2) 骨ライニング細胞(bone lining cell, BLC)
骨表面を覆う细胞集団で、骨芽细胞や骨芽细胞前駆细胞、间叶系干细胞から构成されている。
(※3) 白血病幹細胞(leukemia stem cell, LSC)
白血病细胞を生み出す元となる细胞。
(※4) Transforming Growth Factor-β1 (TGF-β1)
罢骋贵-βスーパーファミリーに属するサイトカインで、细胞の成长、分化、増殖、アポトーシスや免疫応答、组织の线维化など多様な细胞机能を制御する重要な分泌タンパク质。
(※5) TGF-β受容体2(TGF-β receptor 2, Tgfbr2)
细胞膜上に存在するセリン/スレオニンキナーゼ活性を持つ受容体で、罢骋贵-βリガンドと结合した后に罢骋贵-β受容体1をリン酸化して活性化し、细胞内のシグナル伝达を开始する役割を担っている。
(※6) オステオポンチン (Osteopontin, OPN)
オステオポンチンは、细胞外マトリックスタンパク质の一种で、免疫机能の调节、细胞接着の促进、炎症反応の制御、创伤治癒の促进など、多様な生理机能に関与している。
(※7) 急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML)
骨髄系细胞ががん化し、白血病细胞が异常増殖する疾患。
(※8) 完全寛解
治疗后、白血病による症状や検査での异常が见られなくなり、正常な造血机能が回復した状态。
论文情报
掲载誌:尝别耻办别尘颈补
タイトル:Acute Myeloid Leukemia Stem Cells Remodel the Bone Marrow Niche via TGF-β-Activated Alcam+ Bone Lining Cells, Creating a Self-Sustaining Environment
著者名:Ngan Thi Kim Nguyen¹、Hisayuki Yao¹、Kentaro Hosokawa¹、Yuki Esaki¹、Ryosuke Yuta¹、Shunichi Adachi¹、Fumio Arai¹*
1九州大学 大学院医学研究院 応用幹細胞医科学部門 幹細胞再生修復医学分野/がん幹細胞医学分野
*責任著者:新井 文用
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