Research Results 研究成果
ポイント
概要
原子核を构成する核子の间にはたらく力は、核子同士のキャッチボールに喩えられます。3つの核子间のキャッチボール(3体核力(※1))は、极微の原子核に留まらず中性子星のような天体に至るまで、物质の安定性に本质的な寄与を果たすことが知られています。その详细な仕组みは长らく谜でした。40年以上前の先行研究による重要な示唆があるものの、3つの核子间のキャッチボールに関する知识が当时は乏しかったため、决定的な结论を导くことはできていませんでした。
本研究によってこの谜を解明することができました。3つの核子がキャッチボールをするとき、核子は量子力学に従い、いくつかの运动パターンだけが许されます。そして、特にそのうちの1つの运动パターンにおいて3つの核子がお互いを引きつけ合い、物质を安定化させているのです。
九州大学基干教育院の福井徳朗助教、Università degli studi della CampaniaのGiovanni De Gregorio 研究員、Istituto Nazionale di Fisica NucleareのAngela Gargano研究員からなる国際研究グループは、3つの核子間のキャッチボールの仕組みを理論的に解き明かしました。これを可能にしたのが、先鋭的な核力理論(※2)とスーパーコンピュータを駆使したシミュレーションです。计算の结果、2つのボール(中间子(※3))を使って3つの核子がキャッチボールをすることで引力が働き、原子核中の核子をおとなしくさせている(励起しにくくしている)ことが示されました。
3つの核子が2つのボールを投げ合うと、核子対の反対称なスピン状态と対称なスピン状态(※4)が区别できなくなるという现象が起こります。この现象は、2つの核子がキャッチボールをする际には决して起こりません。そのため、これまで原子核物理の分野ではあまり注目されていませんでした。しかし、物性物理の分野では类似する现象が知られており、またこの现象は量子もつれ(※5)と密接に関わっています。したがって、将来的には量子技术などを含めた分野横断的な研究が期待されます。
本研究成果は学術誌「Physics Letters B」に2024年7月14日に掲載されました。
研究者からひとこと
3体核力をキャッチボールで喩えた概念図
原子核を構成する核子はフェムトスケール (1フェムトメートル = 0.000000000000001メートル)という極微な世界の “住人” です。“性別” を持ち (陽子と中性子)、フィギュアスケーターのように “自転” をしながら (スピン)、規則正しく “走り回って” います (軌道運動)。そしてこのような動きと同時に、複数のボールを使って “キャッチボール” をしているのです (中間子の交換)。とても真似できそうにありません。
用语解説
(※1) 3体核力
3つの核子の间にはたらく力で、3つの核子系の性质に影响を及ぼすだけでなく、多くの核子から成る多体系て?も本质的な役割を果たす。近年の実験技术の向上と核力を记述する理论の発展を背景に、3体核力の重要性が次々と报告されており、3体核力は原子核研究のフロンティアのひとつて?ある。
(※2) 先鋭的な核力理論
ここではカイラル有効场理论を指す。强い相互作用の基础理论は量子色力学であるが、その低エネルギー有効理论と位置付けられる。2体核力だけでなく、多体核力をも整合して定义できる长所を持つ。
(※3) 中間子
核子の间の力を媒介する粒子で、本稿ではボールになぞらえた。様々な种类の中间子が存在するが、本研究ではパイ中间子という最も軽い中间子を理论に取り入れている。
(※4) 反対称なスピン状態と対称なスピン状態
核子はスピン(自転运动に喩えられる)という极微な磁石の性质を持っている。核子対は、スピンの向き(自転の方向に类似)によって、スピン一重项と呼ばれる反対称な状态(核子の入れ替えに対して状态が変わる)とスピン叁重项と呼ばれる対称な状态(核子の入れ替えに対して状态が変わらない)に分类される。核子间にはたらく最も基本的な力である2体核力は、スピン一重项と叁重项を混ぜることはないが(核子対は常にどちらかの状态をとる)、パイ中间子を2个交换する3体核力が働くとスピン一重项と叁重项が混ざる(どちらか一方の状态ではなくなる)。
(※5) 量子もつれ
ある量子状态と别の量子状态の重ね合わせで状态が记述されていることを量子もつれと呼ぶ。自転で喩えたスピンで説明すると、核子の自転の向きが右回りなのか左回りなのかが定まらない状态に対応する。(※4)の説明にも书いた通り、スピン一重项と叁重项の混合も量子もつれである。量子情报や量子技术分野の基础となる量子特有の性质である。
论文情报
掲載誌:Physics Letters B
タイトル:Uncovering the mechanism of chiral three-nucleon force in driving spin-orbit splitting
著者名:Tokuro Fukui, Giovanni De Gregorio, and Angela Gargano
顿翱滨:
お问い合わせ先