Research Results 研究成果
ポイント
概要
叁次元人工スピンアイスにおける强い磁気相互作用と弱い磁気相互作用の概念図
磁石の中でねじれたスピンが波として伝搬するスピン波(※2)は、伝搬時に電流が流れないため、情報担体として利用することで、消費電力の低減が期待できるとともに、10 GHz を超える高周波領域でも動作するため、スピン波トランジスタ(※3)やスピン波ロジック回路(※4)などへの応用が期待されています。更に、近接したナノ磁石を二次元周期的に配置させることでスピン波の伝搬を制御するマグノニック結晶や人工スピンアイスなどが知られており、これらの特性を活用した新しい脳型学習演算回路(ニューロモルフィックチップ)(※5)の実現が期待されています。しかしながら、ナノ磁石間に働く相互作用が強くないため、変調効果やエネルギーの分裂幅が十分でないことが問題となっていました。
本研究では、従来、単一の强磁性层で构成されていたナノ磁石を、2つの强磁性层と层间を分离する非磁性体からなる叁层构造で构成し、极めて强力な磁気相互作用を実现することに成功しました。
九州大学大学院 理学研究院のTroy Dion助教(プロジェクト教員)と同 木村崇 教授らの研究グループは、英国のImperial College London と University College London のグループ及び米国のUniversity of DelawareとUniversity of Colorado Colorado Springsらと共同で、強磁性/非磁性/強磁性の三層構造で構成されたサブミクロンサイズのナノ磁石からなる人工スピンアイスを絶縁体基板上に作製し、それらの磁気特性を詳細に調べました。その結果、単一のナノ磁石は、各磁性層のスピンの向きや旋回方向に応じて16個の状態を構成できること、また、強磁性層間の強い磁気的相互作用により、6 GHz を超える強いスピン波モードの結合が生じることを実証しました。
本成果は、これまで二次元的に构成されてきた人工スピンアイスを叁次元化することで、性能が大きく向上することを示した结果であり、より高性能な磁気情报デバイスやより高机能なスピン波脳型学习演算デバイスなどへの応用が期待できます。
本成果は、2024年05月14日(現地時間)に英国の科学誌Nature Communications のオンライン版に掲載されました。
研究者からひとこと
人工スピンアイスの研究は、今回の共同研究者である英国グループが世界を先导する成果を次々に発表しています。今后、九州大学グループが得意とする电気的?热的スピン注入法等を人工スピンアイス构造に适用することで、更なる高性能化に贡献していきたいと思います。
用语解説
(※1) 人工スピンアイス
スピンアイスとは、基底状态において、隣接间の相互作用のフラストレーションが原因となって、氷と同様の法则であるアイスルールが成立する磁気秩序を持つ物质です。通常は、スピンアイスは、特殊な叁次元结晶构造内において発现する。人工スピンアイスでは、二次元的周期的に配列したナノ磁性体间の相互作用において、同様のアイスルール的なフラストレーションが発现する构造である。
(※2) スピン波、マグノン
全てのスピンが一方向に揃った状态からスピンを励起したとき、その励起が交换相互作用や静磁気的な相互作用によって物质中を波として伝播したもの。磁気秩序が存在する强磁性体、反强磁性体、フェリ磁性体中で生じる。マグノンとは、このスピン波を量子化したものである。
(※3) トランジスタ
固体中の电子の流れを电気的に制御して、スイッチや増幅机能を持たせた电子デバイスで、通常は、半导体で构成される。近年の微细化限界や消费电力の観点から、半导体以外の材料でトランジスタと同様の机能を持たせた电子デバイスの开発が行われている。
(※4) ロジック回路
前述のトランジスタやその他の電子デバイスを組み合わせ、デジタル信号を電気的に処理して、論理演算をIC 部品で、こちらも通常、半導体で構成されているが、他の材料や物理原理に基づくロジック回路の開発も行われている。
(※5) ニューロモルフィックチップ
人间の脳と同様の働きを持つ物理的な现象を利用して、人间と同じような働きを持つ物理的电子回路を実现しようとする演算素子のこと。
论文情报
掲載誌:Nature Communications, 15, 4077 (2024)
タイトル:
著者名:Troy Dion, Kilian D. Stenning, Alex Vanstone, Holly H. Holder, Rawnak Sultana, Ghanem Alatteili, Victoria Martinez, Mojtaba Taghipour Kaffash, Takashi Kimura, Rupert F. Oulton ,Will R. Branford, Hidekazu Kurebayashi, Ezio Iacocca, M. Benjamin Jungfleisch and Jack C.Gartside
DOI: 10.1038/s41467-024-48080-z
研究に関するお问合せ先
理学研究院 教授