光化学の领域からの异分野突入でエネルギーや医疗に革新をもたらす
Discover the Research Vol.5 工学研究院 准教授 楊井 伸浩(やない のぶひろ)
太阳光や电灯の光。私たちの身の回りにはあらゆる光が存在していますが、その存在を意识することはあまり无いかもしれません。
工学研究院の杨井伸浩先生は、光の力に焦点を当て、エネルギーや医疗、量子科学など様々な分野への活用に向けて日々研究を続けています。
光化学の魅力や异分野に知见を活用することの意义について、杨井先生にお话しを伺いました。
小さなエネルギーも力を合わせれば大きくなる
先生の研究内容を教えてください。
私の専门分野は光化学です。化学分野の中の一つですが、そのなかでも光がかかわる分野に所属しています。光化学は幅広い领域でいろいろな研究が进められているのですが、我々の研究室では特に大きく2种类の研究をしています。
一つ目は光の波长変换です。「光を何かモノに当てると光る」という现象について、ちょっと変わった光り方をする材料について研究しています。実は光の色はエネルギーの违いに対応しています。例えば緑、赤、青の光で一番エネルギーが大きな色はどれだと思いますか?

赤色でしょうか。
ざんねん!(笑)赤は一番エネルギーが小さく、次が緑で、青が一番大きいのです。
物质が光を吸収してエネルギーを持ったとすると、そこから少しエネルギーが失われて光るというのが一般的です。対して、我々は「アップコンバージョン」と呼ばれる、当てた光よりも大きなエネルギーの光が出てくるという、自然界にはあまり存在していない物质を作る研究をしています。
エネルギー保存则に反しているようにも思われます。
一见するとエネルギー保存则に反していますよね。エネルギーが小さい緑の光を当てたのに、エネルギーの大きな青の光が生まれるという现象は不思议に思われるかもしれません。もちろん、これにはタネもしかけもありまして、エネルギーを吸収したモノを复数合体させて、より强いエネルギーを生み出しているのです。
漫画「ドラゴンボール」で、主人公たちがフュージョン(融合)によってより强い力を発挥する技があります。それと同じ现象を分子の世界でも起こせるわけです。
生み出された光はどのような场面に活用されるのでしょうか?
エネルギーや医学など、いろいろな分野への利活用が期待されています。例えば、エネルギー関连だと、太阳光で発电したり、太阳光と水から水素を発生させたりする研究があります。実はこのように太阳光を活用した技术というのは、使える光の波长范囲に限りがあるのです。现状、目で见えるくらいにエネルギーの大きな可视光しか使えていないわけです。もしこれまで无駄になっていた、赤外线のように目には见えない小さなエネルギーの光をアップコンバージョンによって使えるようにできたら、太阳光を使う技术の効率を上げることができます。
医学分野ではどのような活用が考えられますか?
手を太陽にかざすと、赤く透けて見えると思います。太陽光には青や緑などほかの光も混ざっていますが、赤の光だけ目に届いているからです。赤や赤外線のような低いエネルギーの光は、我々の体を通り抜けられるわけです。もし小さなエネルギーの光を体内でアップコンバージョンして、より大きなエネルギーの光を生み出すことができれば、例えば狙った场所に薬を投与したり、脳神経のような手術が難しいとされる部位の治療に役立てたりできるのではないかと期待されています。
光の力で医疗机器の高感度化を目指す
先生のもうひとつの研究テーマはどのようなものですか?
もうひとつは光を使って惭搁滨(磁気共鸣画像装置)や狈惭搁(磁気共鸣画像装置)といった医疗?分析机器の高感度化をめざしています。例えば、惭搁滨は体をスキャンして脳やケガをした箇所を轮切り画像で见ることができ、その状态や形が分かるという医疗现场において重要な装置です。ただ、现时点では大きな课题があり、実は感度がとても低いのです。
素人目には惭搁滨で见える画像は十分精细だと思っていました。

そうですよね。しかし、綺丽に见えているようで、実は惭搁滨で见えているものは体内にたくさんある水や脂肪分でしかなく、重要な生体分子までは见えていません。タンパク质や顿狈础、代谢物などいろいろなものが见えていないわけです。例えば、肿疡があったとして、形の情报は得られているのですが、肿疡の中で何が起きているのか、分子はどうなっているのかといった详细な情报までは分からないのです。もし惭搁滨の感度を上げ、いろいろな分子、物质まで精细に见えるようになれば、病気の诊断や、タンパク质と薬の相互作用などを调べることに役立つのではないかと期待されています。
どのようにして惭搁滨の感度を上げるのですか?
そもそもなぜ感度が低いかというと、惭搁滨というのは强い磁石と电磁波を利用して分子中の核スピン(原子核がもつ小さな磁石のようなもの)を见る技术で、その际に核スピンの大半が打ち消し合ってしまうのです。体内には核スピンがたくさんあるのですが、结局见えているのは打ち消されずに残った残りかすであるわけです。そこで、我々は光を吸収して励起状态になる分子を作ることで残る电子スピンの差を大きくし、それを见たい分子の核スピンに渡すことで感度を高めるという研究をしています。
异分野にこそ化学の新たな可能性が眠っている
先生の研究室ならではの特徴を教えてください。

惭搁滨と高感度化、それぞれの分野を研究されている方はたくさんいます。ただ、化学の立场でそういった量子物理の领域、惭搁滨の高感度化にかかわっている研究室はあまりありません。このように量子物理と化学という异分野に突入していき、新しく何ができるのかを见つけるというのが我々の研究室のスタンスです。
异分野の研究课题に积极的に取り组まれているのですね。
物理の领域では现在入手できる材料を使うのが一般的ですが、それでは限界があります。そこに化学分野の知见を生かすことで、物理の限界を超えて医疗やバイオロジー、创薬などの様々な分野につなげていく。我々はこれを异分野融合ではなく、异分野突入と呼んでいます。(笑)
异分野を研究するとなると大変なことも多いのではないですか?
これまでできなかったことへの挑戦を続けていく中で、我々の研究室だけでは解决できない问题に直面してきました。例えば、生命分野の研究がしたくても、我々ではマウスや细胞を使った実験はできないので、そういったことが得意な研究者と一绪にお互いの得意分野を持ち寄って教え合いながら共同研究することが多いです。
心から楽しめるからこそ研究に向き合える
先生は昔から研究者を目指していらっしゃったのですか?

大学生のころは最初全く考えていませんでした。学生时代に研究室を选ぶときも、「何かすごそう、面白そう」という感覚だけで选択しました。ただ、研究を始めてみると楽しくて、「こんなに楽しいことを続けられるなら研究者になりたい」と思いました。当时は多孔性金属错体と呼ばれる穴の空いた材料について研究しており、その分野で世界の最先端を走っている研究室で勉强していました。まだ発展途上の研究分野だったので、「友だちや先生と话し合いながら自分で考えたアイデアで、世界と戦えるかもしれない」という感覚を実感できたことがとても面白くて、これが私の研究者としての原点です。
学生にとって所属する研究室は影响が大きいのですね。
私自身が学生時代、研究室で自由に研究させてもらい、研究の面白さを教えてもらったので、次は自分がそういう场所を提供したいと考えています。だからこそ、私は学生に今日はこれをしようとか、あれをしようとか細かく課題を設定することはしません。もちろん、最初は研究テーマを与えるのですが、その後は学生自身にアイデアを考えてもらうようにしています。学生が自分なりのアイデアで、「これが面白い!」「これができたら絶対にすごい!」と思えることに熱中するというのが一番大切で、研究を楽しめると思うからです。
学生も一人の研究者として扱っていらっしゃるのですね。
もちろんです。私がひとりで考えることには限界があります。普段の研究から、学生にも意见を出してもらっており、私では思いつかないような斩新な视点が出てきたり、一绪に考えるなかで新しいアイデアが生まれたりすることは日常茶饭事です。

学生たちにはどのような人材に成长してほしいですか?
卒业后に何をするのか、どのような职に就くのかはそれぞれの选択でしょう。ただ、私の希望として、学生には自分の存在意义を感じられる人材になってほしいです。そのためには、他人が敷いたレールをただ进むだけではいけません。レールがないところに自分なりのレールを敷いていく、自らの力で开拓していく必要があります。研究室では学生も一绪に新たな分野に突入していく経験をするので、新たなことに挑戦するマインドが育つのではないかと思っています。
先生の今后の活动の目标や展望を教えてください。
今后20年、30年のことを考えると、量子技术は注目度が高いと思います。その中で、ひとりの化学者としていったいどのように贡献できるのか。この答えを见つけることが今后の目标です。ただ、量子とひとことで言っても、量子コンピューターや量子通信、量子センシングなどさまざまな领域があります。例えば、量子センシングにおいて我々のようなモノを作れる研究者が新しいセンサーを创造し、これまで达成し得なかった高い感度のセンシングができるようになれば、化学を専门とする人材が活跃できる新たな领域を作れるのではと考えています。
自分の価値観に従って挑戦すれば道は开ける
先生は化学の魅力を社会に発信する活动もされているとか。

九州大学の教员?学生有志で结成した「ピカリかがく」というチームで、九州に限らず全国の中高生に化学の面白さを知ってもらうための活动を行っています。主に中学校や高校に伺い出前授业を行っています。今后は第一线で活跃されている化学分野の研究者にインタビューして、ホームページや动画などで発信していく予定です。
なぜこの活动をはじめたのかというと、中高生が勉强する化学と、日々我々が面白いと思いながら进めている化学の研究には大きなズレがあると思うからです。もちろん、中高生时代に习う勉强が化学の基础であることは间违いないのですが、おそらくそれだけでは大学で何を研究するのかイメージが涌きにくいでしょう。我々の活动を通して中高生に少しでも「化学って面白い。大学で研究してみたい」と思ってもらえたらとてもうれしいですし、化学の面白さを知ってもらい、将来何かの形で応援してもらえたらいいなと思い、活动をスタートさせました。
最后に、进路に悩む中高生にひと言いただけますか?
今の时代、若いときからいろいろな挑戦ができますし、何度でもやり直しができます。自分が取り组みたい课题や贡献したいことがあるのなら、积极的に挑戦してみるのが大切だと思います。一方、今はまだやりたいことがはっきりしていない场合は、自分が何となく面白そうだと思える分野に进んでみるのもよいのではないでしょうか。実际の学びや研究はやってみないと分からないことも多いと思いますが、自分の価値観に従って挑戦すれば、きっと道が开けるはずです。
杨井先生の研究の详细については、をご覧ください。